大塚角満の ゲームを“読む!”
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短期集中連載として昨日から始まった、『モンスターハンター3(トライ)』の中枢、辻本良三プロデューサーと藤岡要ディレクターをお招きしての鼎談“良三さん、藤岡さんと『3(トライ)』を語る”の第2回目です。ワタクシ、大塚角満を交えて、奥深き『3(トライ)』の世界をさらに掘り下げていきます。
モンスターの世界
辻本 しかし大塚さん、もらった質問状とまったく違う話にばかりなってますよ。
大塚 ホントですねえ。
辻本 もう明らかに、時間的に全部答えるのは無理です(笑)。
大塚 それは、つぎの機会でいいや(笑)。なので細かいことじゃなく、ホントにいま聞きたいことだけピンポイントで。たとえば、オープニングムービーのこと。
藤岡 ああ、はいはい。
大塚 今回のオープニングムービー、めちゃめちゃ評判がいいですね! 実際、すばらしい出来だと思うし。
藤岡 ありがとうございます! よかったです(にっこり)。
大塚 すごくモンスターにフィーチャーした映像なんですね。
藤岡 はい。思い切って、ああいうの作りたいなって思ったんですよね。ハンターが絡めばそれはそれでおもしろいものにはなるとは思うんですけど、そういうものじゃなく、本当にモンスターどうしの関わりを描ききってみたらどうなるか? って思いまして。あくまでも、この世界のシチュエーションのひとつでしかない映像なんですよ、今回のオープニングって。ああいうことばかりが起こっている世界というわけではなく、そういうシチュエーションもありうる世界なんだよ、と言えばいいでしょうか。おそらくね、あのシーンのやりとりが終わったあとって、彼らはわりと平然と、パーっとそれぞれの行きたい方向に散っていくんです。アプトノスも、ジャギィたちも。そういう世界のほんの一部を切り取れたらおもしろいだろうなぁ……ってずっと考えていたんですけど、でも作るとなるとたいへんだろうな……とも思っていて(苦笑)。群れを描こうとすると、イチからアニメーションをつけなきゃだし、ディティールもしっかりしていないとすごさが伝わってこない。なので今回は全体的に、ディティール、アニメーション、質感、それと空気感もそうなんですけど、いままで作ってきた経験プラスもうひとつ上の映像表現までやってみよう、ってことで作業に入りました。たいへんだろうと思ったんですけど、映像を作ってくれるスタジオの人たちもしっかりと前を向いて受け止めてくれたので、頼もしかったですね。
大塚 同じ思いを共有できたんですね。
藤岡 はい。なので、どこまでできるかわからないけど、とにかく構想だけは膨らませてみようってことで。でも蓋を開けてみたら、やっぱりとてつもない物量になったんですよ。それでもスタジオの方々は「やってみたい!」と言ってくれたし、僕のほうも生態というものに踏み込んだ『3(トライ)』のときでなければこういう映像は作れないと思っていたので、腹を括りました。なのでできあがったとき、大塚さんに早く見せたいと思ったんですよ。
大塚 うん、そう言ってくれましたよね。
藤岡 去年かな? 東京ゲームショウのときには一部ができてて、11月か12月には完成していたんです。音楽もオーケストラで収録して当てたらすごくマッチして、壮大な雰囲気も展開の速さもさらに気持ちよくなったので、「早く見せたいなあ」と思えるムービーになりました。
大塚 そっかあ(にっこり)。
藤岡 あの映像をきっかけにして、「『3(トライ)』やってみたいなあ」って思ってもらえたらうれしいなあ。
大塚 『野生の王国』というか『ディスカバリーチャンネル』を髣髴とさせるものがありますね。
藤岡 そうですね。シリーズの最初からムービーに関しては、テーマとして『ディスカバリーチャンネル』的な生態表現をしていきたい、というものがあったんですよ。無印(初代『モンハン』のこと)のときがとくにそれが強くて、実際にモンスターを見てきたかのように描いたらおもしろいんじゃないか、って思って作ってみたんですよね。でも、無印のときに『3(トライ)』のオープニングみたいにモンスターにフィーチャーしすぎたものを作ったら、ハンターを見たときに「この人たち誰?」ってなっちゃったと思うんです。それはダメだと思ったので、無印のときは『3(トライ)』のときほど踏み込めなかった。やっぱり最後にモンスターとハンターのやりとりをしっかりと描いて、「あなたたちは強大なモンスターに立ち向かっていくんですよ」ということを啓蒙しないといけないと思って、無印のオープニングはああなったんです。
大塚 でも、『3(トライ)』のタイミングだったら……。
藤岡 ハンターはほんのちょっと出てくるだけでもいけるんちゃうかな? と思ったんですよね。なので“最後にハンターが出てくるまでにモンスターを描ききる”ということをテーマに制作していました。たいへんでしたけど、やってよかったですよ。
辻本 それに今回は水中のモンスターもいるので、ストーリーの展開にも幅が出せたんですよね。
藤岡 二元的に描けたんですよね。水と陸の両方から展開させることができたので、スピードも迫力も出せましたし。
辻本 そうそう、こんな裏話がありますよ。去年の東京ゲームショウのときにこのオープニングの最後、ハンターが4人並んでいるシーンをプロモーションビデオ(PV)に組み込んで流したじゃないですか?
大塚 はいはい。
辻本 このPVができあがったときに見てみたら、いちばん左のハンターがスラッシュアックスを背負っていたんですよ(笑)。
一同 (爆笑)
辻本 もう「やばい!!」ってなって……。
藤岡 急遽ハンマーに差し替え(笑)。
大塚 僕の友だちが気づいて、うわごとのように言ってましたよ。「東京ゲームショウのときはハンマーだったのに!!」って。誰も気づかなかったから、「何を寝言言ってんだ」って相手にされてなかったですけど(笑)。
辻本 差し替えたんです(笑)。「まだスラッシュアックスは発表してないやん!!」って。
藤岡 「なんやこの武器は!!」って絶対になりますからねえ。
辻本 「こんな初出しはないやろ!!」って大騒ぎでした(苦笑)。
気づきましたか?
大塚 あの、『3(トライ)』を実際に遊んでみると、そこかしこに“ハンターとモンスター”っていう関わりじゃなく、“モンスターとモンスター”という関わりが見えるじゃないですか?
藤岡 ああ、そうですね。
大塚 なので実際に『3(トライ)』を遊んだあとにあのオープニングを観ると、さらに「キタ!」ってなるんですよね。自分たちが遊んでいるあの世界を切り取ってきたものがコレなんだな、って思えるので。
藤岡 モンスターがらみのことを設計するときに、“モンスターどうしが意識しあう”っていうのがテーマのひとつだったんですよ。「モンスターの設計はこれを目指そう!」って感じで。モンスターとモンスターが無関係に動きすぎるととたんにゲームっぽくなるし、ふと見たときにその様子が目に入るととたんに覚めちゃうんですよね。なのでゲーム中でも、モンスターはハンターに向かってきてはいるんだけど、なんとなくモンスターどうしが意識し合っている……というのが描けたらもっと感情移入できるかな、って思って。そのへんも、改めて土台から作る『3(トライ)』だったら掘り下げられるかなと思い、小型から大型まで関係性を持たせていこうということになりました。最初にジャギィとレイアを作ったとき、ジャギィの群れの中にレイアが降り立ったらジャギィたちが反応する……っていうのを作ったんですけど、これが、見ているだけで楽しかったんですよね。“ゲームとして楽しい”っていうのはその先にあるんですけど、まずは“見て楽しい”ってのは大事なことちゃうんかなって。
大塚 わかる! だってオルタロスですら、見ていて楽しいですもん。
藤岡 あははは。あいつら、いいですよね。さりげなくハンターに絡んでくるし(笑)。
大塚 昔からそうなんですけど、『モンハン』って“捨てモンスター”ってのがいないじゃないですか? どれもこれも、しっかりと世界観の中で立っているというか。それが『3(トライ)』は、さらに強くなっているんですよ。
藤岡 うん、そうですね。
大塚 シングルモードを始めてモガの森に行ったら、そこにケルビの群れがいたんです。ああ、なんだか安心できる風景だなぁって思っていたら、何かの間違いみたいなデカいケルビが1頭いて、そいつが突っ込んできたんですよ!
藤岡 あはは! あいつはかなり“オラオラ系”ですからねえ(ニヤリ)。
大塚 でもね、そこでいろいろ考えるんです。こいつは闖入者(ちんにゅうしゃ)に怒っているのかな? 群れを守ろうとしているのかな? とかね。随所にそういうシーンがあるんだよなあ。
藤岡 ケルビにしても、もっとプレイヤーからアプローチできたらいいな、って思っていたんですよね。ふつうに狩って剥いだら皮が剥げるけど、気絶状態で剥ぎ取りしたら角が出やすい、とか。ああいう、草食のモンスターにしてもアプローチの仕方がいろいろあったらいいかな、ってアイデアを出し合ったんです。随所にありますよ、そういうの。アプトノスひとつとっても、いろいろ動いてきます。
大塚 ほうほう。
藤岡 隣のエリアに大型モンスターが来たとき、アプトノスがそわそわしだすんです。
大塚 あ、そうなんですか!?
藤岡 はい。僕ね、あのシーンはけっこう好きなんです。隣接しているエリアに大型モンスターがくるとそわそわするアプトノス……。ザワザワザワ……って感じ。こういった、モンスターのちょっとした仕草が見切れるようになってくると、プレイヤーの立ち回りも変わってくると思います。細かいところですけど、そういうことができるようにしておく、ってのは大事なのかなって。遊びの幅が増えるじゃないですか。
大塚 隣のエリアにいる大型モンスターの声が、かすかに聞こえますしね。
藤岡 はい……って、よく気づきましたね、大塚さん。
大塚 あ、いや〜……。
(取材に同行していた)江野本ぎずも 大塚さん、気づいてなかったんですよ!!
一同 (爆笑)
大塚 ………………。
江野本 いま新しい単行本『角満式モンハン学〜ハンター編〜』を作っていて、そこに読者の皆さんから『3(トライ)』を遊んだファーストインプレッションを投稿してもらっているんです。その中に「隣にいる大型モンスターの声が聞こえた!」というのがあって。でも、ウチは気づいたんですよ、それを読むまえに。
藤岡 ああ、そうなんですか。一部の鳴き声だけではありますが、うっすら聞こえるんですよ。
大塚 それに気づいている人って、さらに世界観の奥行きを感じられるわけですね。……まあ俺は気づいていなかったけど(苦笑)。
一同 (爆笑)
大塚 ……でも言われなくても、そのうち気づいたのは間違いないんですけどね!
辻本 あはははは!!
藤岡 大塚さん、そこで踏ん張らなくていいですよ(笑)。でもこういうのって、知った人が喜べるっていうのがいいじゃないですか。そうすると、本当に何でもないことでも「これには意味があるんじゃないか?」って見られるようになってくるし。なので都市伝説が生まれるくらい、じっくりと見てほしいですよ。
大塚 本当に細かいところで世界観を感じられるから、この世界に深く関わっている感がすごく強いんだろうなあ。
藤岡 モガの森だと、とくにそうでしょうね。ゆっくりと、何もないところを眺めていられるので。
大塚 モガの森がいいんだわ、これが……(シミジミ)。悠久の時の流れが……。
辻本 厚くネットワークモードを遊んでいても、ときたまちょっとシングルモードに戻りたくなるんですよね。だからいまのライフサイクルは、ネットワークで遊んで切断したあと、寝るまえの1時間だけシングルをやることですもん。
大塚 わかるわあ……。今回、シングルモードの充実度がハンパないですね。いつまでもいたくなるもん。
藤岡 そうですね。それが強くなっていると思います。なんだかんだ言って、据え置き機ではシングルモードを厚く遊ぶってことが自然に起こるので、シングルで遊んでいるのが心地いいって……ユーザーに思ってもらえることが重要なんです。ゲームの設計としてそれは外せなかったので、『ポータブル』シリーズよりもシングルモードを意識して作っていると思います。『ポータブル』って、絶対的に人と遊ぶことが多いじゃないですか? 遊べば遊ぶほど、つねに携帯しているということもあってどんどんそういう機会が増えていくと思うんです。でも据え置き機の場合は、「遊ぼう」って思ったときのスタート地点は、“ひとり”からなんです。なので、“ひとりで遊んでいても楽しい”ってことが最低限保障されていないとゲームとしてよくないな、って思っています。
大塚 村とか村人がすごくそれっぽいから、シングルプレイでの寂しさみたいなのをあまり感じないですしね。
藤岡 村人として子供を描けたことが、じつはすごくよかったんだろうな、って思っているんです。いままでのシリーズはどうしても子供まで手を出せなかったので、いつも村にはおじいちゃんと若者しかいなかった。でもここに子供が加わると、グっと生活感が出てくるんですよ。村の中を子供たちが「わー!」って闇雲に走り回ったりしている姿も、ゲームの進行には関係ない部分なんですけど、けっこう好きだったりします。
辻本 子供たち、勝手に部屋に上がり込んだりしているよね(笑)。
大塚 そう!! すげえ侵入してくるんすよあのガキども!!
藤岡 しかも勝手に部屋の中をゴソゴソして何かを拾い上げたと思ったら、ポイって捨てたりして。「おまえ捨てんのかよ!!」みたいなね(笑)。
一同 (爆笑)
藤岡 そこにいるだけで癒されるような空間を作りたかったんですよね。プーギーもそうですけど、関わっているだけで気持ちいいじゃないですか。
大塚 モガの森とかクエストから帰ってくると、村長の居場所が毎回変わっているじゃないですか?
藤岡 はいはい(にっこり)。
大塚 あれだけで人間臭さを感じちゃうんです。
藤岡 村長、やたらとウロウロしてるんです(笑)。ひとりで海を見ていたり。僕は今回、村長がイチ押しですよ。いままで設計した村長の中で、いちばん好きかもしれません。
大塚 へぇ〜! そうなんだ! 村長と看板娘はいいですよ。
辻本 あの軽〜い看板娘ね!!
藤岡 軽いよね〜(笑)。
大塚 軽いんですけど、クエストに出発するときに手を振ってくれるじゃないですか? あのときの手の振りかたが微妙にかわいくて好きだ俺(笑)。
藤岡 手を振ってくれるだけで、なんかうれしいんですよね。
大塚 そうそう。
藤岡 そういう部分があるだけで、クエストへのモチベーションが上がったりしますよね。私利私欲だけじゃなく、関わっているだけで楽しい、って思えるほうが広がりがあっていいし。ゲームそのものに向き合うと、『モンハン』って数値が多くてシビアじゃないですか? だったらそれを取り巻くものについては、ゆるくてゆったりしたものを用意してあげたいんですよ。
次回に続く!
大塚角満
週刊ファミ通副編集長にして、ファミ通グループのニュース担当責任者。群馬県出身。現在、週刊ファミ通誌上で“大塚角満のモンハン研究所”というコラムを連載中。そこら中に書き散らした『モンハン』がらみのエッセイをまとめた単行本『本日も逆鱗日和』シリーズ(4巻)が発売中。また、そこからのスピンオフとして別の視点から『モンハン』の魅力に迫る書き下ろし作品『別冊『逆鱗日和』 角満式モンハン学』シリーズも。このブログではさまざまなゲーム関連の話題を扱うつもり。一応、そのつもり。
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