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【MHP 2nd G】第22回 そのとき、樹海に黒い風が吹いた その2

2008年04月21日

 意思を持った刃のような黒い疾風に翻弄されながら俺は思った。ナルガクルガは怒っている、と。樹海に君臨する自分のナワバリを冒そうとする、俺の存在そのものに激怒している、と。しかし俺もハンターの端くれだ。「出て行け!」と言われて、おめおめと尻尾を巻いて出て行くわけにはいかねえだろ! 俺はナルガクルガの怒気に負けぬよう必死に心を鼓舞して、徹底的に固めたガードの隙間から新たな好敵手の動きを目で追った。ちょうど、我が愛するオトモアイルー、オリガミちゃんを追い回しているところだ。風のように俊敏な動きと、長く、しなる凶器のような尻尾でもって、オトモアイルーをきりきり舞いさせている。しかもあの黒に近い身体の色が、木々が生い茂る樹海の風景にイヤらしく溶け込んで動きが判別しづらくなっている。目で追いにくい色と、飛竜の中でもトップクラスと思われる速い動きに対して、この重いガンランスでどう対抗すればいいのか? 何度かナルガクルガの攻撃の雨にさらされたときに、じつはその答えは出ていたのだ。俺がこの迅竜に対抗する手段はコレしかない。俺は樹海にこだまする大きな声で叫んだ。

 「やられるくらいなら守る!! 徹底的に守る!!

 と。少なくとも攻撃をガードし続けることができれば、時間切れはあってもこっちが倒れることはない。それにガードの隙間から覗き見ることで、ナルガクルガの動きも見えてくるようになるに違いない。つまりこれは、”守りのための守り”ではない。”攻撃のための守り”なのだ!

 ……と、いまでこそかっこつけて書いているが、じつはこのとき、俺はとんでもない事実に気づいて焦りまくっていた。恐ろしいことに、ゲームを一時停止することができなかったのだ。「PSPの調子が悪くてできなかった」、なんていう理由ではなく、初めて対峙したナルガクルガの動きがあまりにも速く、そして動きの読めない怖さから、スタートボタンを押してメニューを出してリストから一時停止を選んで押す……という、ふだん何の気なしに行っている行動に移ることができなかったのである。「メモも取れねえよお!」と俺は喚いた。こんな経験、怒れるラージャンを相手にしたときですら記憶にない。

 こんな感じなので俺はナルガクルガと向き合っているあいだ、ほとんど武器をたたむことができなかった。ナルガクルガの動きが止まったときも、いきなり何をされるのかわかったものじゃないから、いつでもガードができるように武器を構えたままジリジリとにじり寄る有様。怒ったネコが相手を牽制するようにナルガクルガがピクリと動くと、情けないことに俺はそれに反応しまくって「うわわわ!!」とガード姿勢。ナルガクルガも攻撃の合間にこちらの動きを窺うように距離をとることがあり、そのときも俺はガード姿勢を崩さなかったものだから、狩猟していた25分の大半は、ナルガクルガと俺のあいだに非常に緊張した沈黙の時間が流れていた。この無言のにらみ合いが、なんとも言えず怖かった。こっちが動いた瞬間に鍛え抜かれた迅竜の爪が襲い掛かってきそうな気がして、PSPを持つ俺の手は汗まみれになってしまった。

 それでも、どんなにチキンと言われようとも、ファーストコンタクト時にガードに徹する作戦は決して間違いではない。とくにナルガクルガは動きが尋常じゃなく速いので、ガードができなければ俺などは、「いったいいまの風は何だったんだ?」とポケーっとしているうちに昇天させられていたに違いない。でも、今回は守り抜いた。黒い疾風が脇を通り抜けたと思ったら、瞬時に吹き抜けた風の方向に向いてがっちりガード。案の定、そこに攻撃が飛んできて冷や汗をかく。距離が開いていても安心はできない。中間距離からガード姿勢のままジリジリとにじり寄ると、いきなり長い尻尾の鞭と、棘の雨が降り注いできたりする。それをバキン! とガードして、やはり冷や汗をかく。こんな調子だから、ガンランスの必殺技である砲撃も竜撃砲も撃つことなんてできやしない。何とか懐に入ってガード突きをツンツンツンとお見舞いするのが関の山で、運良く砲撃できたところで今度はリロードする隙が恐ろしくて弾丸を補充することができない。「どこまでチキンなんだ」と思われてしまうことを承知で書いているのだが、それくらい「どんな攻撃をしてくるかわからない」という事実は恐ろしいことなのである。

 それでも、俺は楽しかった。ナルガクルガの攻撃を受けながら、俺は「こいつは完全に格闘マンガの世界だ!」と思ったのだ。疾風のように回り込んだ死角からの攻撃を読みきり、見えない方向に向かってガード。しっかりと受け止めたところでナルガクルガにガード突きを見舞い、これを嫌がって距離を取られても、決して油断せずに武器は出したまま。刹那の逡巡もなく再び風になって侵略してくる黒い怒気のカタマリを受け止め、懐に潜り込んで砲撃を1発。相手が怯んでも深追いはせず、再びガード姿勢……。オノレを守り続けることのおもしろさと快感に身を委ねながら、拮抗した力と技のぶつかり合いに心を奮わせた。そして、相手が長きにわたるライバルになるとわかっていながらも、「最高だおまえは!」とナルガクルガを賞賛した。

 俺とナルガクルガの生存競争が始まってから15分。俺はこの狩猟で初めてとなる竜撃砲を放った。前述のとおり、対峙しているときは砲撃すらままならない緊張世界の住人となるので、竜撃砲なんてとんでもない話。でもどうしても撃ちたかったので、ナルガクルガがエリア移動を敢行したのを見逃さず、先に着地点で待ち伏せして特大の1発を見舞ったのだ。さらに20分すぎ。ナルガクルガがオトモアイルーに気を取られて俺に背中を向けている隙に「たたた頼むからいまこっちに気づいてくれるな……」とドキドキしながらもう1発。凶暴な火焔に焼かれるライバルの姿を呆然と眺めながら、「オトモアイルーよくやった!!」と、『2nd G』を始めてから最大級の賛辞をオトモアイルーに投げかけた。結局、俺が今回の狩猟において竜撃砲を放てたのはこの2発きり。本当にギリギリの状況下でナルガクルガと向き合っていたことがよくわかる。

 そして25分すぎ。じりじりと焼けるような緊張感に包まれた生存競争も終わりに近づいていた。あの生命力に溢れた黒き疾風が、ズルズルと足を引きずり始めたのだ。それを見て、なんとも言えない寂寥感に包まれるガンランサー。今回は確かに俺が勝った。しかしこれだけ力が拮抗していると、いまボロボロになって足を引きずっているのが俺だったとしても、少しもおかしくない。むしろ、俺が一度もオチずにここに立っていることのほうが奇跡と言える。でもこれは、お互いの全存在を賭けた男と男の勝負だったのだ。情けをかけることは許されない。俺は万感の気持ちを込めてナルガクルガにトドメを刺そうとした。しかしそのとき、我が愛するオトモアイルー、オリガミちゃんがパタパタとナルガクルガに駆け寄って行き、その頭にポカンと1発マンガのような一撃! そして画面に、

 ”目的を達成しました−−”

 の文字が……。ドラマのクライマックスで涙を噛み締めながら「つぎはもっと強くなってこいよ!!」と叫ぶ熱血ヒーローになりきっていた俺を、強引に現実世界に引き戻してくれたオトモアイルーの強烈な一撃。二の句が告げなくなり、「お、お、おまえなんて空気の読めないことを……」と震えながらオトモアイルーを眺めていると、彼はすっかり得意顔で「ダンナ、トドメ刺してきたニャ! ホメてくれニャ!」と言いながら主人のもとに駆け寄ってくる。それを見てすっかり毒気を抜かれ、俺は、

 「まったく、おまえってヤツは……」

 と苦笑しながら相棒の頭をくしゃくしゃに撫でるのだった。

投稿者 otsuka-eb : 2008年04月21日 15:51