大塚角満の ゲームを“読む!”
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週刊ファミ通に第一報が載ったときから、気になって気になって仕方のないタイトルがあった。それがソニー・コンピュータエンタテインメントのPSP(プレイステーションポータブル)用ソフト、『勇者のくせになまいきだ。』。良作が多数発売される年末年始商戦のさなかにあって、俺がもっとも注目していたタイトルである。
このソフトはPLAYSTATION Networkを介して、PSPで体験版を遊ぶことができる。さっそく体験版配信初日にダウンロードして遊んでみた。そして、「こいつはヤベぇ……」と驚愕した。
『勇者のくせになまいきだ。』は、ゲームのジャンルを見ると”シミュレーション”ということになっているが、なかなかひと口にシミュレーションと言い切れない奥の深さ、というか、クセがある。アクションゲームのようにも見えるしパズルゲームのようでもある。はたまた蠢くキャラクターを見ているとリアルタイムストラテジーを見ているようでもあるし、純粋なシミュレーションゲームと言い切ってしまってもいい気がする。しかし、どこかで見たことあるような気がしながらも、やってみると「どこにもなかった」とつぶやきたくなるこのシステムに、既存のジャンルを当てはめるほうがムチャなのかもしれない。それくらい、『勇者』は斬新なゲームだった。
このゲームの根幹にある設定は、いわゆる”エコシステム”だ。つまり、生態系。植物が土中から養分を吸い上げて芽を出し、それを昆虫が食して繁殖し、それを哺乳類が捕食して子孫を繁栄させ、その屍が土中に吸収され、それを植物が……ってヤツだが、これを非常にポップかつユニークに応用したのが『勇者』なんですねぇ。
プレイヤーは”破壊神”となって、地面をひたすら掘っていく。土には養分が含まれている部分があって、そこを掘ると”ニジリゴケ”(言っちまうとスライム)という生き物が発生する。このニジリゴケはズリズリと壁に当たるまで直進しながら、土中から養分の”吸収”と”排出”を交互にくり返す。ニジリゴケは”壁に当たるまで直進しかできない”という悲しい宿命を背負っているのだが、この宿命を利用してうまい具合にニジリゴケの巡回路を作ると、土中の特定の場所に養分が厚く溜まっていくのだ。養分の溜まり具合は土の色を見るとわかって、緑色が白っぽく変色してきたら掘りごろ。そこを掘ると”ガジガジムシ”という、なんとも魅力的な名前をした昆虫のような生き物が生まれてくる。さらに、”白っぽい”じゃなく、”真っ白”になるまで養分の貯蓄を待ってから掘ると、肉体自慢の武闘派生物”トカゲおとこ”が誕生する。このニジリゴケ、ガジガジムシ、トカゲおとこは捕食関係にあって、ガジガジムシはニジリゴケを、トカゲおとこはガジガジムシを好んで食べていくのである。するってーと、彼らは繁殖を始めて、土を掘らなくてもジャンジャンバリバリと個体数を増やしていくのでありました。こうして増やした生き物をシモベとして、”魔王”をさらいにくる生意気な勇者どもから守ってあげる……というのが破壊神たるプレイヤーの仕事なのである。
しかしじつに簡単そうに説明してしまったが、この地下迷宮のエコシステムを機能させることは容易なことではない。ものすごく、思い通りにいかない(日本語ヘンだな)。「簡単かんたん、食物連鎖ってヤツだろ? ピラミッドだろ?」と理屈ではわかっているのだが、生まれ出た生き物たちはオノレの宿命(ニジリゴケのように壁に当たるまで直進しかできない、とかね)に沿った動きかたをするのみで、これにプレイヤーが介入することは”ほぼ”できない。つまり、「こっちいま、ニジリゴケが足らないんですけど!!」といくら思っても、ひょいとコケを摘んで行ってほしいところに落としてあげる……なんていうヌルいマネはできないのだ。何とかしようと思ったら、生き物で飽和状態になっている地区から過疎ってしまったところまで迂回路のような穴を掘ってなんとか来ていただけるように誘導する……。このくらいのことしかできない。めったやたらと養分が多いところを掘り進んでも、エコシステムが機能するように掘らなければ迷宮は壊滅してしまうのだ。たとえば、「ニジリゴケばかりじゃ頼りないのでガジガジムシを増やして勇者を撃退しよう」と思って白っぽい土をがじがじと掘ってムシばかり増やしてしまうと、いつの間にかニジリゴケが絶滅して、飢えたガジガジムシの大群が蠢くおぞましい虫のダンジョンと成り果ててしまうのだ。いま”飢える”と書いたが、生き物は食物連鎖の下に当たる生物を捕食することで体力を蓄え、繁殖する。ところが食すべき生き物がいなくなってしまうと、当然のことながら飢えて死んでしまうのである。なので特定の生き物ばかりが増えてしまったダンジョンは、たとえ強いトカゲおとこだらけになったとしても”失敗作”なのだ。食物連鎖の鎖が切れないように、バランスよくエコシステムを構築することがこのゲームを進めていくうえでの絶対条件ってわけだ。
どんなゲームか、わかってもらえたかな……? なんだか小難しいことを書いちゃったけど、このゲームは考えれば考えるほど味が出てきておもしろくなるのだが、軽い気持ちでテキトーに、ボコボコボコと穴を掘って行くだけでも十分楽しい。もともと俺は穴を掘るゲームが大好きなので(『ディグダグ』に始まり、『ミスタードリラー』や『クロニクル オブ ダンジョンメーカー』なんかもめっちゃ好き)、今日もひたすら、なかなかうまく機能しない我がダンジョンのエコシステムを苦々しく眺めながら、それでも楽しく、穴を掘っている。
俺と同じように、このゲームの魔力に魅せられてしまったのがファミ通編集者の女尻笠井である。最近、ヤツは気がつくと下を向いて、PSPをいじくりまわしている。『勇者』に没頭しているのである。
そんな笠井が数日まえ、ニヤニヤしながら自慢げに俺に話しかけてきた。
「大塚さん、『勇者』、クリアーできました?」
そのとき、俺はエコシステムを機能させるコツがまったくつかめなくて、クリアーどころか序盤でもゲームオーバーになってしまうほどのスランプに陥っていた。でも俺がこんな有様だから、直属の部下である笠井も苦戦していることだろう。俺は言った。
「いや、ぜんぜんダメ。でもおもしろいから続けているけどな」
すると笠井はウケケケケと高笑いをしたあと、上司を見下す不遜な口ぶりでこう言った。
「僕はもう、クリアーしましたよ! 完全にコツをつかみましたよ! もう勇者なんて怖くないっスよ!!!」
俺はドラゴンデストロイで頭をぶん殴られたようなショックを受け、ついつい(笠井のくせになまいきだ!!)というあまりにもベタな言葉が口から出てきそうになるのを必死にこらえ、(これだけは絶対にコラムに書かないでおこう!)と心に誓ったのであった。書いたけど。しかも、強調文字。
しかし、悪魔のように高笑いをしながらプレイを続けていた笠井が、「あ、アレ? おかしいな……」、「げ! またか……」、「り、理解したはずだったんだが……」と、徐々に声がしょぼくれていくのを俺は聞き逃さなかった。今度は俺がニヤニヤ笑いながら、笠井に話しかける。
「どうかしたの? 笠井クン。『勇者』で何かあったのかい?」
すると笠井は顔から汗を噴出させながら、涙声でこう言った。
「あ、あのあの、食物連鎖のコツを完璧につかんだはずだったんですけど、なぜか1面もクリアーできなくなっちゃいました……」
俺はウケケケケと高笑いし、「クリアーできたの、偶然だったんだよ^^ お互い、精進していこうね^^」と笠井を励ました。
その後、ふたりともスランプを脱して勇者どもを完全に撃退することに成功。でも、どんなに理解したと思ってもやっぱり一筋縄ではいかないダンジョンのエコシステムは、意外なほどプレイヤーを飽きさせない。今日も俺と笠井は、競うように穴を掘り続けている。やられるにしろ撃退するにしろ、ごく短時間で楽しめるのもこのゲームの大きな魅力のひとつだ。
『モンスターハンターポータブル 2nd』で体力を使ったあとの、一服の清涼剤としてピッタリのゲームかもしれませんよ? 興味を持たれた方は、まず体験版から遊んでみるのもいいかもね♪
大塚角満
週刊ファミ通副編集長にして、ファミ通グループのニュース担当責任者。群馬県出身。現在、週刊ファミ通誌上で“大塚角満のモンハン研究所”というコラムを連載中。そこら中に書き散らした『モンハン』がらみのエッセイをまとめた単行本『本日も逆鱗日和』シリーズ(4巻)が発売中。また、そこからのスピンオフとして別の視点から『モンハン』の魅力に迫る書き下ろし作品『別冊『逆鱗日和』 角満式モンハン学』シリーズも。このブログではさまざまなゲーム関連の話題を扱うつもり。一応、そのつもり。
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