しかしまあ、これだけ「おめでとう!」という言葉が飛び交う世界も考えてみれば珍しい。
経験値稼ぎのパーティで誰かのレベルが上がると、
「おめでとう」、「【おめでとう!】」、「おめー」、「gratz」、「めめー」などと、
レベルが上がった以外の5人から祝福の言葉が飛んでくる。
ハイペースで敵を倒し続けるあわただしいパーティーだと、
レベルが上がった本人が気づかずに、いっしょになって「おめでとう」なんて言ったりもする。
「おめでとう」は、ヴァナ・ディールで冒険者に起こるあらゆる変化に対して使われる。
レベルが上がったときはもちろんのこと、
デュナミスで希望しているアーティファクトを入手したときや、
「合成スキルが0.1上がった」、「新しいウェポンスキルを習得した」、
「クエストをクリアーした」、「レンタルチョコボの料金がいつもより安かった」などなど、
リアクションはほとんど「おめでとう」で済まされてしまう。
ときには、「敵にからまれて戦闘不能になった」と言っても、
「おめでとう」と返ってくることすらある。
ヴァナ・ディールにいる限りは万能の合いの手と言ってもよいだろう。
しかしこれは不思議な現象でもある。
なぜなら、我々は現実の日常生活において、頻繁に「おめでとう」と言ったりしないからだ。
すくなくともわしは、ほとんどない。「ありがとう」なら、
日常生活で人と接触する機会のある人なら、
自分でも気づかないうちにかなりの回数を口にしているはずだ。
しかし。
「おめでとう」は、結婚式場に勤めているといった、
かなり特殊な環境にある人しか口に出さない言葉だと思う。
わしが「おめでとう」と言うのは、新年の挨拶を除けば、
誰かの誕生日だとか、子供が生まれたときとか、受験に合格したときか、
病院から退院したときくらいだ。
すくなくとも「今日は運がよくて、待ち時間全然なしで電車の乗り継ぎができたよ」
という人に対して「おめでとう」と言うことはない。
そんな状況で「おめでとう」と言えば、言われたほうが不思議な気持ちになると思う。
だいたいは、「そりゃよかったね」で済ませてしまう。
現実の生活とヴァナ・ディールでは、「おめでとう」の使用頻繁にはかなりの差がある。
この原因は、現実の生活とは文字どおり「現実の生活」であり、
そうそうお祝いばかりもしていられないのに対して、
ヴァナ・ディールは基本的に「祭りの世界」だからなのだと思う。
とてもとても強い相手に対して剣を振りかざしたり、
2日に1回は蛮族が街に攻め込んできたりする世界では、
基本が祭り、祭りが日常なのだ。だから冒険者たちの体温もすこし高めで、
テンションも当然のように高くなっているのだろう。
そしてわしは、お祝いの言葉がひっきりなしに飛び交うこの世界が好きだ。
ところで、同じ「おめでとう」と言うのに、
タブ変換機能を使ったり「おめー」などと省略せずに、
きちんとキーボードを打って「おめでとう」と言うことにこだわる人がいる。
わしもかつては「おめでとう」は手打ちにすると決め、
その縛りを守っていた。タブ変換や「おめー」だと、どこかおざなりで、
薄ら笑いを浮かべながら口の端でとりあえずお祝いしてる、
という感じを与えてしまうかも、と考えていたからだ。
これは、手紙を書くのに、ワープロを使わずに手書きにしたほうが
心がこもっているように見える、という考え方とどこか通じるものがあるように感じる。
何にせよ手間をかけたほうがかけないよりはよいとする風潮は、ある。
それが正しい姿だと断言はできないが、
この辺にこだわる人と出会うたびに「日本人らしいなあ」と嬉しくなるのも事実である。
とは言え、何かと忙しいパーティ中に手打ちで、
「おめでとう」と言うのがわずらわしい場合もある。
わしはものぐさの億劫がりだから、余計にそう感じることが多い。
かと言ってタブ変換機能を使うのも味気ないし……と考えた末、
わしは読みを「あり」にして「ありがとう」という単語を、
「おめ」で「おめでとう!」を、辞書に登録した。
楽をしてることはたしかだが、いいのだ、
タイピングをさぼっていないと伝わりさえすれば。
あ、そうそう。
マクロなのか辞書登録を利用しているのかはわからないが、
わしのフレンドがお礼を言うときの文句が、「ありー(手打ち)」。
明らかに手打ちではないのだが、
わしはこの捻りの効いたユーモアが気に入っている。
●Bekunaiプロフィール
Alexanderワールドで活動するガルカ。所属国はバストゥーク。読みかたはそのまま「べくない」で、落語の『やかんなめ』の登場人物からの借用。「武士に仕える者」の意味だとか。ヴァナ・ディールでの冒険暦は古く、今年で5年目に入り、プレイ時間は550日以上。白魔道士、赤魔道士、シーフ、ナイト、狩人、コルセアの6ジョブがレベル75。メインジョブはコルセアだと言い張っているが、白魔道士か赤魔道士でいる時間が全体の8割を占める。鍛冶スキル100。ヴァナ・ディールでの趣味は通りすがりの辻ケアル・辻プロテスで、辻ケアル隊の隊長を自認するものの隊員は自分だけ。このごろは「ふとした出会い」を求めてヴァナ・ディールをぶらついていることが多い。本名の田原誠司で週刊ファミ通のクロスレビューに時々登場する。

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