IF YOU SHOOT KILL!! ROCKSTAR!!
PRIMO TEMPO(前編)では、ロックスターゲームズ最新のオープンワールド・アクションゲーム超大作『RED DEAD REDEMPTION』(以下『RDR』)というタイトルが、いかにマカロニ・ウエスタンの影響を受けているかを検証しようとしたが、マカロニ・ウエスタンの周辺文化を掘り下げている内に文字数が尽きてしまい、肝心なところまで語れなかったので、今回お届けする後編ではゲーム、映画、音楽、そして歴史が複雑に絡み合う『RDR』の特筆すべきポイントについてタップリと語ってみたい。なにもマカロニ・ウエスタンを知らなければ遊べないゲームではない。その間口とてつもなく広く、探れば探るほど面白い。そこに興味を持ってもらえるかどうかで、このゲームの遊び方は全然変わってくるという事実を是非知ってほしいのであります。
そもそも『RDR』とは、どういう物語なのか? あんまり細かく書くとネタばれになってしまうので、来るべき日本語ローカライズ版発売時まで割愛させていただく。主人公は孤高なガンマン、ジョン・マーストン。妻子が行方不明の状況で、大きな目的を持って西部の街に殴り込んできた。しかしそこは法はあってないような荒野の世界。あらゆる悪がはびこる中で、ジョンは妻子の行方の手がかりと、ある男を探し始めるのだった……。ここではメインストーリーに関してはネタバレ防止も兼ねて一切追わず、その脇道に用意された膨大な“ゲーム”の要素について解説しておきたい。
開拓時代の混沌とした北アメリカ大陸が舞台というだけでなく、果てしなく続く大自然の再現は圧巻の一言に尽きる。もうどこをほっつき歩いていてもキメカットになってしまうフォトジェニックさは尋常ではない。同じ原野でも、雨の日、風の日、晴天、そして昼夜それぞれが全く違った景観を楽しませてくれるのだ。この天候のプログラム技術だけでも相当大したもんだが、狂ったように照りつく太陽もまた、ゲーム中にリアルに喉の渇きを覚えてしまうピーカンぶりで、日陰に入ると思わずホッと一息ついてしまうほど。風景、景観を楽しむだけでゲームが1日終わってしまうだろう。メキシコ側から昇る日の出の素晴らしさは、特等席で数分はガマンしなければ味わえない。遮蔽物と空気汚染のない世界の夜は、こんなにも美しいものなのか! そんな観光スポットを探し出すゲームではないのだが、思わず写真に撮りたくなる世界を作り上げたロックスター・ゲームズに改めて賛辞を贈りたいのだ。
しかし、なにも原野をウロつくだけがゲームじゃない。原野にはレアな野草や花も生息していれば、珍獣から猛獣までアニマルパニックのオンパレード!登場する全ての動物(昆虫以外)は全て捕獲可能で、ナイフで五体を裁き皮革や肉、牙や角や爪やらを売る事で生活費(回復と弾丸の購入にほとんど使われる)を確保。『モンハン』のように、その場で調理して喰うことはできないものの、狩猟の楽しみは存分に味わえる。仕留めた獲物にナイフを差し込み解体する作業のゾクゾク感がたまらない。見晴らしの良い場所の岩陰の暗がりに陣取り、コヨーテや狼をライフルで射殺する度に「これで15ドル、あいつでまた15ドル」と計算している自分がいて、そら恐ろしくなった。
指名手配犯を“ALIVE(生)”か“DEAD(死)”で捕獲、または射殺したことで報酬を頂戴する“バウンティハンター”もイケてる職業だ。逗留している街や村に警察署や保安官事務所があれば、定期的に指名手配犯の情報ポスターが貼り出される。そのポスターをひっぺがせばミッション開始となるのだが、手配者が1人だからといって馬鹿正直に1人で行動しているワケない。最低でも4〜5人以上相手にすることを覚悟して、回復アイテムや周囲の行動がスロー効果になる“デッドアイ”モード維持のためのアイテムは補充を欠かさず、ついでに弾薬もタップリと持っていきたい。手配犯は情勢が悪くなると早馬で豪速球で逃亡したりするので厄介。さらにフリーランスの山賊や詐欺師、押し込み強盗などが荒野をウロついているので、「他人に会ったら敵と思え!」を合い言葉に行動しないと逆に殺されるのが、百年前のアメリカなのである。
そしてアメリカといえば“銃”である。銃社会アメリカの礎となった西部開拓時代ではあるが、とりあえず細かい時代考証は抜きにして、実に様々な銃火器が楽しめる。最初は装填数の少ないリボルバーしか所持していないが、ゲームを進行させれば次々と新しい武器が入手できる。遠くのカモシカも1発で仕留めるライフルは、スコープ付きセミオートなら同時に複数匹をぶっ殺すことも可。単身バレルのショットガンで
『ケオマ・ザ・リベンジャー』のフランコ・ネロ気分を味わうことも可能なら、ユニーク武器で掟破りの連射殺戮までも可能であり、ついでに据え置き型銃器(キャノン砲、バルカン砲など)で大量殺戮を演出してジャンゴ気分全開。拳銃ならモーゼルをゲットして
『殺しが静かにやってく来る』のサイレンスになりきりプレイ!(もちろん雪原エリア限定!)などなど、また話がマニアックな方向に行ってしまったが、ウエスタンの真髄は銃にあるので、その銃に対するコダワリは並大抵ではない。アウトロー、そしてカウボーイとは一体どんな人間だったのか? それを、これまでにないスケールで追体験をさせてくれるゲームが、『RDR』なのではないかと思う。
銃を手に入れたら射撃のテクニックを磨かねばいけない。前作に当たる『レッドデッド・リボルバー』から引き継がれた“DEAD EYE(デッドアイ)”システム(編注:発動するとスローモーションになる)は、より進化を遂げて凶暴になった。人質を盾にした敵の親玉のアタマを正確に撃ち抜きたい時、敵が多すぎて集中砲火を喰らっている時、馬で流している最中に背後から襲われた時、その全ての危機に“デッドアイ”が炸裂する。“デッドアイ”が洗練されていなければ、狩猟や護衛といったゲームとしての面白さの根幹に関わる要素までツマラなくなる。デッドアイ発動のタイミング、薬効の有無(ゲージ残量の回復など)、装弾数と敵の数を瞬時に判断しながら戦いを攻略する流れは非常に興奮する。GTAシリーズとは違った高揚感が確実にあるのだ。特に乗馬時のチェイスおよび銃撃戦の恐ろしさは『GTA: サンアンドレアス』における“ドライブバイ”の比ではない。
移動は馬以外にも駅馬車(タクシーと同じ)や蒸気機関車などがあり、ゲームを進めていけばアッと驚く乗り物も用意されている。移動機関を乗りこなせば時間の節約にもなるし、どこの場所で放り出されても、愛馬は口笛ひとつで主のもとに飛んでくる。GTAにおけるクルマと同じ役割とはいえ、お気に入りの馬に出会うと愛情まで芽生えてくるから驚きだ。愛馬のケツに生け捕りにした山賊のボスをのっけて帰る道すがら、何度か山賊の待ち伏せをくぐりぬけ、最後は興奮剤を使用したラストスパートで安全な集落に突っ込んだ時には、異常な達成感が愛馬との間に生まれたことも付け加えておきたい。
また駅馬車は乗るだけでなく護衛ミッションや自ら運転するハメになる時もある。4匹の馬を駆動力に活かした駅馬車は、ダンプカーさながらのスピードで荒野を爆走してくれる。古き良きアメリカンバイオレンス&カーチェイスの世界に、いま『RDR』を介して飛び込むことができるのは、実に素晴らしいことではないか!
カウボーイ、男の世界では時に男同士でじゃれ合うこともある。指の股をナイフで高速往復するミニゲームでは、意地と度胸と正確な動体視力が試される。酒場に行けば、いかつい男たちがポーカーを囲み、交わればハードボイルドの世界。帰ってミルクでも飲んでな的な硬派な戦いがテーブル越しに繰り広げられることに! もしポーカーを興じているのを見つけたら、迷わずゲームに参加して、相手の顔に注目してほしい。そこにあるのは、まさしく"ポーカーフェイス"。どんな手札を持っていようが顔色ひとつ変えない男たちとの争いこそ、西部男のライフスタイル! 勝利したらカウンターで一杯テキーラを飲んでしまおう(はんなりデッドアイゲージが回復する恩恵あり)。
ここまで書いたものの、まだ『RDR』全体から見れば一部分にすぎない要素ばかり。もう書き続けていたらキリがないので、ここらで一旦マトメに入ろう。
前編では、マカロニウエスタンと呼ぶのは日本だけで、海外ではスパゲッティ・ウエスタンが正しい名称となっていることを締めの部分で触れた。なぜマカロニではなくスパゲッティなのか? ここがものすごく重要で、長い映画の裏面史が巡り巡って『RDR』にまで辿り着いてしまうからである。
そもそもスパゲッティは、東方の麺類がシルクロードを通じてローマにもたらされた出自の料理。日本が世界に誇る名作時代劇
『用心棒』を源流にイタリア映画を代表する巨大ジャンルに育ったのだから、同じルーツを持つスパゲッティを組み合わせて生まれたのは実に自然なことだと、名付け親の1人である映画史研究家のクリストファー・フレイリング氏が語っていた。スパゲッティ・ウエスタンとは、遠く離れた日本とイタリア結ぶリスペクトの証であり、一言でジャンルの内容を簡潔に表現しているのである。
そしてスパゲッティ・ウエスタンはスプラッター映画にも多大なる影響を与えている。いや、むしろ直接の源流として考えるべきだろう。
『続・荒野の用心棒』の耳削ぎシーンやジャンゴに加えられた壮絶なリンチ。
『さすらいのガンマン』ではマチェーテ(ナタ)が脳天に食い込み、頭皮が引き剥がされる。
『ソルジャーブルー』のクライマックスは北軍による先住民キャンプ急襲虐殺事件を丹念に描き、女子供も容赦なく殺戮の対象となり、首が宙を舞った。この残酷表現の元ネタも、実は黒澤映画『用心棒』にある。チンピラの腕が三船の太刀で切り落とされ、真っ黒な血飛沫を吹き上げるシーンこそ、世界最初の露悪的リアリズムに乗っ取った切り株描写である。その影響は遠く海を越えた先で百花繚乱の時代を迎えるに至った。
『サンゲリア』を送り出したイタリアの職人ホラー監督ルチオ・フルチは1960年代にフランコ・ネロ主演で
『真昼の用心棒』('66)を撮っているし、
『サスペリア』のダリオ・アルジェントは、若き脚本家時代にウエスタンを2本作った。その内の1本は仲代達矢主演の異色ウエスタン
『野獣暁に死す』('68)。仲代が器用されたのは、もちろん黒澤映画
『椿三十郎』における仲代が演じる室戸半兵衛の壮絶な死に様への、アルジェントのリスペクトから決定したそうだ。そして三船敏郎もテレンス・ヤング監督作品、チャールズ・ブロンソン、アラン・ドロンの二大巨頭と共演した珍道中西部劇
『レッドサン』('71)に主演。三船のウエスタン出演は時期的には完全に遅刻だったが、日本とヨーロッパの間で盛んに映画交流が繰り広げられていた点は見逃せない。そしてスパゲッティ・ウエスタンのえげつない物語、残虐描写は日本に逆輸入され、勝新太郎率いる勝プロダクションは特にビビットに反応。『荒野の用心棒』を更にハードコアに、そしてアシッドにアレンジしたかのような
『新座頭市物語 折れた杖』は精神的には“和製すぱげってぃ・ウエスタン”とでも区分できる異常な傑作。そして若山富三郎主演による東宝の劇場版
『子連れ狼』のマシンガン乳母車などは、原作の時点で『続・荒野の用心棒』のようなトンデモ武器系ウエスタンの影響を色濃く受けている。さらに日・伊の共演合作は白熱し、
『暁の用心棒』シリーズのトニー・アンソニーが主演した
『STRANGER IN JAPAN』('69)という、難破したスペイン船からガンマンが日本に流れ着き京都の史跡名所で大暴れするという大怪作まで存在するからビックリだ。
もちろん日本だって負けてはいない。日活アクション路線といえば小林旭が有名だが、二番手に追っ付く“エースのジョー”こと宍戸錠は、日活の和製ウエスタン映画(なんじゃそりゃ?と、思うがソバ・ウエスタンということか?)
『メキシコ無宿』では日本人なのに特濃のパンチョを熱演。世界で“三番目の早撃ち”というキャッチコピーも微妙で良かった。しかし日本とは環境も背景もDNAも違いすぎたので和製ウエスタンはすぐに廃れたが、男のロマンを求める観客はそのままいる。マカロニ・ウエスタンは、そんな市場に流れ込んできた強大なムーブメントだったのだ。
かつて日本とイタリアの映画界は、ここまで濃密な関係を結んでいた時代が確かにあった。その流れは現在は完全に断絶されているが、そのミッシングリンクを結ぶのが『RED DEAD REDEMPTION』なのである。日本映画の模倣から始まったイタリア製西部劇。『用心棒』へのリスペクト抜きには語れない『荒野の用心棒』の存在あっての『RDR』である。全ての事象、歴史、文化は遠い旅路を経て原点に帰結したのだ。最新鋭のゲームに生まれ変わって。しかも、である。『RDR』も元々はカプコンが開発していた『レッドデッド・リボルバー』(略称はRDRのまんま!)がロックスターに移譲されたタイトル。日本製アクションゲームのシステムと欧米人の心の故郷・ウエスタンの世界の融合は、我々が気づかない間も常に行われていたのだ。この輪廻を深く考えずにはいられない。
『Red Dead Revolver』 |
ゲームのレビューとしては、ずいぶん長い文章になってしまったが、筆者としてはこれでも説明不十分ではないかと自問してしまう。書きたいことは山ほどあるが、それをうまく伝えられない自分の筆力を恨むしかない。そして『RDR』は本当に面白い! クリアまでこの先どれほどの時間がかかるか全く予想もつかないが、今は大自然の中に溶け込んだ、百年前のワイルドライフを思いっきり楽しみたい! それだけである。
こうして筆者は今日もアリゾナの荒野を歩きまわり、ミッションそっちのけで鹿探しに熱中して不用意に茂みに足を踏み入れ、猛毒ガラガラヘビに噛まれて死にかけるのだった……。
最後に前編に引き続き、マスク・ド・UHオススメの西部劇映画リストをオマケに付けておくので、各自DVDを探すなり借りるなりして、是非プレイ前プレイ中プレイ後のカンフル剤にお役立てください!
『クイック&デッド』(監督サム・ライミ!)
『カンニバル!THE MUSICAL』(監督トレイ・パーカー!)
『サボテンブラザース』(監督ジョン・ランディス!)
『盲目ガンマン』(主演リンゴ・スター!)
『夕陽のガンマン』
『ウエストワールド』
『ミスター・ノーボディ』
『郡盗荒野を裂く』
『真昼の用心棒』
『野獣暁に死す』
『サルタナがやって来る 虐殺の一匹狼』