現地直送! 北米ゲーム事情リポート

信じることがすべてさ――クラウドファンディングはクリエイターの救世主か

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 ここ数ヶ月、Kickstarterでの出資に成功したゲームの成功譚が爆発的に増えているのは、力強く非常におもしろい現象だ。商業的にあまり流行っていないジャンルのゲームのデベロッパーたちはゲーム制作への希望を取り戻し、そのファンたちは積極的に愛するクリエイターを支持する―金銭的に。ビデオゲームの歴史において、これ以上のルネッサンスたるべきプロジェクトがあっただろうか?

 Kickstarterは2008年に立ち上がり、“クラウドファンディング”というスタイルのサービスで人気のベンチャー企業だ。クリエイターが規模を問わない幅広いビジネスアイデアを披露し、オンラインで一般の人が少額の出資を行う。まだ実物がないなんてことも多いから、このアイデアがいかにうまくいくか人々に訴えかけ説得するビデオなんかもよくアップロードされる。あとは締め切りと目標額と、出資した人への金額ごとの報酬(5ドルならこれだけ、50ドルならTシャツもついてきて、10000ドルならパーティーに招待といった感じ)が決まればスタート。あっと、目標額に達しなかった場合はすべてキャンセルになり、お金はまったく入ってこない。

 この会社は出資成功したプロジェクトから総額の5%を受け取るのだが、2011年から2012年にかけてKickstarterは売上ベースで3倍に成長すると見込まれている。ゲームはまだ全体から見ると小さな領域にしか過ぎないが(約5%で、音楽は30%以上で映画は20%以上だ)、最近のいくつかのプロジェクトの記録的な成功により、徐々に重要な領域へと成長しつつある。  まずはティム・シェーファーと彼のDouble Fine Productionsがゲーム業界に大きなインパクトを与えた。彼らは3月にアドベンチャータイトルを手掛けることを発表し、40万ドルの目標額に対して集まったのは……300万ドル近く多い330万ドル。そして翌月にはブライアン・ファーゴと彼が率いるInXile Entertainmentが往年のゲームの続編『Wasteland 2』をKickstarterして、90万ドルの目標をこちらも大きく超えて約300万ドルを集めた。

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 このふたつの成功は、同じようなことを考えていたプロジェクトに青信号を出した。俺たちも行けるぞ、イェイ! 『Shadowrun Returns』(往年のタイトルの方で、あのFPSのリメイクじゃないよ!)が180万ドルを集め、『Leisure Suit Larry Returns』が65万5000ドル、『タイタンクエスト』のクリエイターが手掛ける『Grim Dawn』が53万7000ドル、『ガブリエル・ナイト』シリーズのジェーン・イェンセンの新作が35万3000ドル……。

 「ファンならおなじみのアレ」って特徴がこれらの成功物語には共通している。それが数万人規模でも、ファンベースがすでにあるということは、過去にすでに一度は成功し、信頼もされたということの証明だよね。かつて好きだった開発者が生み出したノスタルジックな過去の記憶を呼び起こされ、サポーターになってプロジェクトに貢献するということがとても多いんだ。

 こういった事実は、プロジェクトの方向性に多少ならずとも影響を与えているように見える。デベロッパーたちは、もちろんただ昔の名前でやるんじゃなくて、新しくてフレッシュな物を作りたい。だが彼らは、完成前にお金を払おうという人々の欲求とのバランスも取らなくてはならなくなるのだ。約束するものが少ないと、そこまで多くの額を引き出せないかもしれない。多くを約束しすぎてしまうと(モリニュースタイルだね!)、ゲームを出荷した時に怒ったファンが押し寄せてくるだろう。要するに、ゲームを小売で買うのとは異なり、ファンたちはまだ実体のない約束にお金を払っているのだからね。

 さて、Kickstarterで出資成立までこぎつけたプロジェクトは、実は今のところ22%しかない(例えばボードゲームはおおよそ40%だ)。残りは何も得ずに去らなきゃいけない。多くのプロジェクトは野心がありすぎて、非現実的なアイデアでお金をかき集めようとしたもの。インスピレーションと、開発能力とのバランスが重要だよね。その辺り、先程名前を挙げたようなKSで成功したベテランたちは、自分たちに出来ることと出来ないことをよ〜く知っている。

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 一方で、現実的ではあっても、まだ成功の確証がないプロジェクトにKickstarterがどういう役割を担っていくかはまだ不透明だ。元小島プロダクション&『Halo 4』のクリエイティブディレクターでもあったライアン・ペイトンは、『Republique』なるiOSゲームで新たな挑戦を仕掛けた。スマートフォンゲーム市場で、AAA(最上級)のシネマティックなアクションゲームをもっと見てみたいという野望のためだ。なめらかないい見栄えのビデオがアップロードされ、スマートフォンゲームとしては破格の50万ドルという目標額が設定された。
 しかしながら、航海は難航し、30日間のプロジェクトは新たな興味を惹きつけるためのコマ目なアップデートを必要とした。中でもPC版とMac版の発表は、多くの出資者に興味を持たせるきっかけとなった。最後のひと押しを求めてソーシャルネットワークで声を挙げた多くの人の助けもあって、最終的に残り7時間という段階でプロジェクトはようやくゴールを迎えることができた。これは、とてもオリジナルな、あるいはまだ無名なプロジェクトにとっては、Kickstarterでみんなにお金を出させようとするのはまだなかなか大変な段階だということなんじゃないかとも思える。

 とはいえ、だ。ゲーム世界が、超巨大予算による大メーカーのゲーム世界と、うじゃうじゃ人がいる少額課金のゲーム世界のふたつに分断されたと感じてフラストレーションを溜めていたゲームデザイナーたちは、Kickstarterを新鮮に感じていることだろう。事実として、Kickstarterのようなファンディングサービスは、あらゆる形のクリエイティブプロジェクトに対し、人々がそのクリエイターを喜んで信じる限りにおいて、幅広い門戸を開いているのだから。
 だが、「俺たちゃ行ける!」と思っているのはクリエイターだけではない。ゲーマーたちもまた、この新たなお金の使い道を信じている。KickstarterはDouble Fineのプロジェクトが発表されてから6週後、それまでの2年間と比べて2倍以上の金額がビデオゲームカテゴリーで出資されるようになったことを明かしている。信じること、そう、それがすべてなわけさ……。


プロフィール

Jason Brookes

ジェイソン・ブルックス

イギリスのスタイリッシュな辛口ゲーム雑誌『Edge』の元編集長。ふと思い立って渡米後、『LOGiN』アメリカ特派員などを経て、現在は学生としてデジタルアートを学び直す日々。イギリス人らしいシニカルさは、アメリカに渡った現在も健在だ。実は日本のあるゲームの名付け親だったりもする……。

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