« 『心機一転:ULTIMA ONLINE』 | 実録!オンラインゲーム人生記のホーム『鍛冶屋:ULTIMA ONLINE』2007年10月24日兎にしか勝てなかった衝撃の日からこっち、僕の精神はずっと『Ultima Online』(以下、『UO』)の世界に彷徨っていた。 否、いま思えば引退するその日までそうだったのかもしれないし、いまでもそこから抜け出てはいないのかもしれない。2007年も暮れかかったいまでさえ僕の心は簡単にあの頃のあの世界へと思いを馳せることができるほどなのだから。 文字どおりそこには別世界が確実に存在したのだ。 『UO』の生活は毎日が発見の連続なのに、その果ては永遠に見つからないような錯覚を覚えるほどその世界は広大だった。森には様々な動物がいて、街の喧騒からは、遠い洞窟やドラゴンの巣の噂、氷の大陸に閉ざされた不死の怪物のダンジョンなどの話も聞けた。世界は広く自分の足下から無限の彼方にどこまでも広がっている感覚。そしてこの世界にあるあらゆる存在は相互に繋がり合い、この独特のファンタジー世界を形作っていた。鳥を狩れば羽が取れる。その羽根と伐採して得た丸太から矢を作ることができた。ツルハシやシャベルで山壁を掘れば鉄鉱石が掘れ、鉄鉱石を炉で溶かせば精製された鉄を得ることができる。鉄からは様々な武器や防具を作ることができるのはご想像のとおりだが、ノコギリや鍛冶用トンカチ、シャベルなどの生活用具も作ることができた。そればかりかヒンジ・歯車などの部品を作って壁掛け時計や六文儀なんてものを作ることもできる。ただ身を飾るためだけの指輪やネックレスも作れるし、狩った肉や釣った魚は火にかけることでステーキや焼き魚にして食べることができた。小麦粉からパン生地を作ってパイやピザも作れるし、ケーキも目玉焼きもクッキーも作れる。椅子にテーブル、木箱に金属製の金庫、玉座に書物机、バンダナ、エプロン、ブラジャー、スカート、マントに道化師の服、サンダルもベンチも作れる。世界のすべては繋がっていて、無駄なものなどここにはないと言わんばかりだ。 そしてそのほとんどがあまり役に立たないのがすごく新鮮だった。もちろん六文儀を使えばいまいる緯度経度を知ることはできる。時計を見ればその世界での現在時刻がわかる。食事を摂れば減ったスタミナを若干回復できるが食べ過ぎるとしばらく時間を置かないと食べられなくなる。そういったそれらの存在意義は理解できるが、それが役に立つかどうかはそれを役に立つように使うかどうかに委ねられている。それらをすべて試したわけではないが、街の往来に行きかう人々がそれぞれに自分のプレイから得たものを行商していたりして、そこでの会話から漠然とそういうことを覚えていった。
『UO』の曖昧さは究極で、例えばありとあらゆるものから数値表示を排除していた。モンスターや動物のヒットポイントがどれだけあるかはわからないし、プレイヤーの攻撃もモンスターの攻撃もどれだけのダメージを与えたのかがわからない。武器のステータスもわからない。魔法のダメージ値も当然判らない。人にぶつかったらどれだけスタミナが減るのかもわからない。ムーンゲートでどこに飛ぶのかもよくわからない。武器や防具の耐久度がわからないからそれがいつ壊れて消滅するのかもわからない。ショベルや裁縫道具があと何回使用できるかもわからない。それらの情報は大雑把に類推する方法が用意されているだけで正確にはわからない。例えば「武器鑑定」のスキルを使うと「すごい斬れ味だ!」と表示されるみたいな感じを想像してもらえばわかりやすい。当然魔法の武器がどれだけ優れているかも漠然としかわからない。数字で表示されるのは現在のスキル値と筋力、敏捷度、知力だけだ。 ここまで徹底的にプレイヤーに曖昧な世界は僕のゲーム人生で始めてだった。それなのにそれが世界の在り方として自然だとすんなり受け入れられたのは自分でも驚きだった。なんといえばいいのか、現実世界に似ていたからなのかもしれない。 人間なんてじつはなんにも知らないんだよ。 そういわれてるような気がした。『UO』の世界はちょっと哲学的でもある。それはいま説明したような『UO』の世界が現実世界のメタファーに見えなくもないという感覚だけで言っているわけではなく、そもそもベースになっている『ウルティマ』の世界設定(厳密には『ウルティマIV』から『VI』)には、世界を構成する三大原理とそこから派生する8つの徳というものが存在する。『UO』でもそれが至るところにちりばめられていた。 三大原理とは"真実"と"愛"と"勇気"で、8つの徳とは慈悲・誠実・武勇・名誉・献身・正義・謙譲・霊性だ。3つの原理の組み合わせの数が8種類になるというわけだ。そしてこの世界がプレイヤーに対してどういう表情を見せるかはプレイヤーの行動に委ねられている。それはもはやシステムでもない。その世界に存在する関連性のなかで自分の行動がどういう影響を及ぼすのか。他のプレイヤーとのコミュニケーションも含めて考えれば全てを予測するのは不可能である。ゲームの目的すら提示しないゲームなのだから他人が何を目的に遊んでいるかなんてわかるはずもない。 だからこそ僕は今でも『UO』は奇跡のゲームだと思っている。おもちゃのブロックを際限なく積み上げていったらガンダムが出来ちゃったみたいな例えは言い過ぎかもしれないが、でもそんな感じだ。 すべての責任は自分にある、そういう世界。プロローグとかオープニングで深い世界設定を語られるわけでもはない。そういうことを知っていればいろいろなところでそれらの断片に気づくことはできるが、知らなくてもプレイにはまったく支障はない。 この潔さ。 自由であることは楽ではないと思う。ただこれだけははっきり言える。その曖昧で(キャラの)生活と死とが真に隣り合わせであり、人の善悪が入り混じった『UO』という世界は、僕にとって刺激的でとても居心地がよかった。
街の外で手ごわいといえば狼や熊で、とくにグリズリーは別格。幸いなことにこちらから手を出さなければ襲われることはないので自分の力量を把握していればそうそう死ぬことはない。そうして狩りをしては肉や皮や羽でカバンをいっぱいにして街に戻る。持てる限界重量は筋力で決まる。戦闘をこなすことで筋力も上がるし、筋力が上がればヒットポイントも増え、攻撃のダメージも上がる(※数値では確認できない)街に戻った僕は店で必要な分の道具を買い、羽から矢を作り、酒場の暖炉で肉や魚を焼く。皮はカットレザーにしておく。それらを銀行の自分専用ボックスに預け、また狩りに出る。 そしてある程度貯まったところで、それをカバンに入れて僕は行商に出る。ブリテンほどではないがベスパーもかなりの人が行き交っている。僕は人が多くなる時間帯を狙って銀行前に立ち「I want to sell a bundle of lether,ingots,fish or rib steaks !」と叫ぶ。人が多いからあっというまにすべて売れてしまう。売り上げたお金はそのまま銀行に預け、また狩りに出たり、酒場に行ってログアウトしたりという生活サイクルが自然とでき上がっていた。僕は順調に強くなり、貯金もすこしずつ貯まっていった。 実生活とは裏腹に『UO』生活は順調だった。 あるとき、もうすぐ終わる営業部の電話に聞き覚えのない会社から僕宛の連絡があった。怪訝に思いつつ電話をかわると恩Dと名乗った。僕の記憶にあるその名前はボーナス100パーセントカットのときに希望退職をした営業部長しかいなかった。そしてまさしくその元営業部長からだった。 営業を何年もやっていると、会話の裏にある真意を推し量る能力が身についていく。そして僕はピンときた。そんな正義感と人情に厚い人から何年ぶりかの連絡である。これは何かのお誘いなんじゃないか。コレは僕の人生の転機になりうるかもしれない。目の前の席に座っているU野くんのスケジュールを聞きながら、その電話ですぐに翌週3人で会う日取りを決めた。 そしてその約束の当日、目黒でとんかつ定食を食べながら3人は久しぶりですねと挨拶を交わした。 そんな熱血漢の恩Dさんはのっけから単刀直入に切り出した。 「ヘロくん、U野くん、いまの人生、幸せって言える?」
でもそんな日も夜になれば僕は広大な電子の海に船出する。 プレイヤーが鍛冶や裁縫のスキルで作成する武器や防具は、ときどき店売りの同製品よりも高品質なものが作成される。それらはHQ品(ハイクオリティ)と呼ばれ、上級冒険者の必須アイテムだった。ただ値段も相応に高額で、僕が皮や魚でコツコツ貯めこんだ全財産をもってしても2セットは買えるかどうかという金額だった。ときどき銀行前でそういったHQ防具を格安で行商している人もいたが、アイテムの数値が確認できない『UO』ゆえに、詐欺の可能性は常につきまとう。詐欺の被害になるべくあわなくする方法はひとつしかなかった。それは、その人物が信用できるかどうかをきちんと見極めること。それだけだ。 その日の狩りから街に帰って酒場でログアウトするまえに、僕はベスパーの街にある鍛冶屋に寄ることを日課にしていた。そこには店の施設として炉と金床があるので、プレイヤーの鍛冶屋が鍛冶製品を作成したり冒険者の金属製武具を修理したりするために自然と集まっていた。僕の目的は狩りで損傷した武器防具の修理をそれらの鍛冶屋プレイヤーにお願いすることだった。 そこでの世間話によれば鍛冶のスキルを極めるのはとても大変なんだと聞いた。何百時間とかかるとも、何百万ゴールド出費がかさむとも言われ、精神力の限界を試される茨の道だとそこにいる鍛冶屋達は口を揃えた。そして、その道を全うし極めたものだけがプロフィールにグランドマスター鍛冶屋と表示されるのだ。そんなGM鍛冶屋の彼らはとても誇らしげに見えた。それ故か、修理は格安で請け負ってくれる人が多かった。無料というのも逆に気が引けるからか、大体1パーツ10gpとかだったりしたが、僕は全身装備で7品に対して100gpをいつも支払うようにしていた。そんなのはほんとうははした金なんだろうけどそのやり取りがあることで信用と自己責任が発生するのだ。人間って賢いなあと思う。そういう生活だからその場で顔見知りのプレイヤーも自然と多くなる。
「胴鎧とロングソードが壊れました><)」 まえにも話したとおり、この世界のほとんどのアイテムには耐久度があり、それがなくなるとアイテムは壊れ消滅するのだ。数値が確認できないのでいつ壊れるのかは正直わからない。僕は気を使わせないように即座に答えた。 「あ、そうですか〜。ずいぶん長く使ってたからしょうがないです。直ったのだけで構いませんよ^_^;)」 「いつも同じの使ってますもんね。でも正直修理で壊れることって稀なんですよ」と言われ、理由がわからなくて僕はきょとんとした。 「え?そうなんですか? 運が悪かったのかな?」 「いやそうではなくて、ええと、壊れるまで使い続ける人が稀って言ったほうがいいのかな。たいていちょっと切れ味が落ちたら買い替えちゃう人も多いみたいで^_^;;)」 納得した。 「あー、なるほど。まあ僕はまだ駆け出しで貧乏なので(笑」 そういうとしばらく間をおいてからその顔見知りの鍛冶屋が僕に尋ねた。 「全財産おいくらくらいですか?」 正直に答えたものかどうか逡巡したのは一瞬で、僕は素直に話した。 「10000ゴールドあるかないかぐらいですT-T)」 「そうですか」 その鍛冶屋さんは迷った風もなく言葉を続ける。 「HQフルプレート一式とHQカイトシールド、HQロングソードで2000gpでどうですか? よければいま作りますよ」 それは店売りの普及品でも全部揃えると1000gpは超えるものだった。ましてやHQ品の作成確率がGM鍛冶屋でどれくらいなのか知らないとは言え、HQ品ができるまでのあいだに作成されたノーマル品は捨て値で売るか捨てるしかないのは理解できた。その材料の鉄がどれくらい必要なのか見当もつかない。実際、プレイヤーが売っているものでその品揃えで10000gpを切ってたのは見たことがなかった。 「え!? だってそんな値段じゃ絶対赤字なんじゃないんですか?」 周りには他の鍛冶屋や冒険者もいる。近くにいればこの会話も当然見えているわけだ。そういうことまで気を使っての発言なんだろうけど、特別扱いが恥ずかしくもある。 しばしの沈黙のあと、鍛冶屋の彼が提案した。 「では、ヘロさんの出してもいい金額を言ってください。その値段にしましょう」 僕は余計に悩んでしまった。10000と言いたいところだが、それは本当にほぼ全財産だ。ショベルや松明など生活小物を買うためにも少しは残しておきたい。かと言って8000とか刻むのが妥当とも思えなかった。悩んだ挙句に僕は鍛冶屋のプライドと僕のちっちゃなプライドの真ん中を取って「5000gpでどうでしょうか?」と答えた。 「ではその値段で^_^)」 それから彼はトンテンカンと鍛冶を始めた。いつもは修理に1分もかからないトンテンカンが、その時は10分以上も響き続けた。途中「ちょっと待ってて」というとリコールの魔法で材料を取りにどこかへ飛び、再び戻ってきて鍛冶を続けた。 「プレートメイルのHQ胴がなかなかできなくて^_^;;)」 そう言いながらトレードウィンドウが開いた。 「お待たせしました」と鍛冶屋は恐縮した。僕はトンテンカンのあいだに銀行へ走って取りに行った代金をウィンドウに乗せた。すぐ取引は完了し、僕のカバンには上級冒険者の証が収められた。どれぐらいのingotを消費したのかは恐くて聞けなかった。 「あなたみたいに大事にする人に使ってもらいたかったの。それから、僕が作ったものは無料で修理しますよ。大体いつもここにいますから 「ほんとうにほんとうにありがとうございました!なんと言えばいいのかぜんぜん思いつきませんが、本当にありがとうございました」 僕は感動のあまり言葉が浮ばない。そして別れ際に彼が言った言葉はいまでも忘れていない。 「ヘロさんが今日感じた感謝は、僕ではなく、次に来るnewbie(新人)に返してあげてくださいね」 その文字を読みながら、画面のこっちにいる僕の目に本当の涙が滲んだことは、誰にも言わなかった。親切の連鎖なんて家庭用ゲームでは絶対にありえない。なんとすばらしいことだろう。僕はそのままいつもどおり銀行に立ち寄り荷物を整理したあと、ログアウトするために酒場に入った。もちろん真新しいプレート鎧に身を包んで。そして、いつもその酒場でウロウロしているコンピュータ操作の酒場マスターからワインとグラスを買うとテーブルに座ってひとりで飲んだ。お酒とかグラスなんかはふだんのプレイにまったく役に立たないアイテムだ。こんなアイテム誰が買うんだろうっていつも思っていた。 グラスに注いだ赤いワインをダブルクリックすると、「ゴクゴクッ」と僕の分身はそれを飲み干した。 その瞬間だったのかもしれない、僕が『UO』の世界をとてもいとおしいと思い始めたのは。 *HIC* 投稿者 hero : 2007年10月24日 17:11 |


