« 『魔力:ULTIMA ONLINE』 | 実録!オンラインゲーム人生記のホーム | 『鍛冶屋:ULTIMA ONLINE』 »『心機一転:ULTIMA ONLINE』2007年02月21日衝撃の告白の翌日、結構お酒を飲んだ翌朝にしては意外なほど目覚めのよい朝。 理由や過程はどうあれ、好きなものは好き。そういう部分は僕はとてもシンプルに考えるタイプなのだ。そして感情に素直というかあまり自分を偽らないし気持ちも押さえ込んだりしない。善し悪しは別にして僕はそういう自分は気に入っていた。もちろんそれゆえ人を傷つけることもあるが、言葉にしなきゃ伝わらないこともある、というのが持論だった。結論から言えばこれは僕にとってとても必要な素養であったということになる。なぜならオンラインゲームでのコミュニケーションはそのほぼすべてを文字に頼らざるを得ないからだ。当然のことながら、言わなくてもわかってくれるはずとか雰囲気を読むという言外の意味を前提とするコミュニケーションの難易度は高く、言わなきゃ伝わらないというスタイルのほうがしっくりくるのである。 そうして僕は昨夜言葉を以て気持ちを伝えて、M子と付き合うことになった。 といってもすぐに何かが変わるわけではない。ただ、駅へと向う冬の朝の陽の光り、それに照らされる街の様子がいつもとは違ってとても輝いて見えたのも事実だった。
会社に着くと僕はお話があるのですがと言って上司を打ち合わせスペースに呼び出した。テーブルに着くなり僕は口を開いた。 「もう一度お聞きしたいのですが、メディアレップの解散は避けられないのですか?」 「そうだな、まあそういうことになるな。解散回避はおそらく無理だ」 「そうですか」 暫しの沈黙が少しだけ僕を感傷的にした。この会社に入るためにした就職活動を思い出す。そういえば社長(当時専務)と表参道でステーキを食べたっけ。社長はコピーライターで、広告におけるコピーライティングについての著書も出していた。そして広告業界で仕事をすることに誇りを持っている人なんだと思ったのをいまでも覚えている。そんなきっとほんの些細な感動が人の人生に影響を与えることはあるのだ。就職活動当時、D通やH報堂など所謂大手10社の就職試験を受け、すべて玉砕していた僕は就職浪人になって来年また挑戦するか内定の出ている中小の広告代理店に入るかで悩んでいた。その僕の背中を押したのがいまいる会社の社長だったのだ。 「広告業界は実力の世界だ。だから1年を無駄にするくらいなら小さい会社でもいいから業界に身を置いたほうが絶対にいい。もちろん君にうちに来てほしいから内定させてもらったんだけど、いつか大きな仕事をしたいならそれまでうちで力をつければいい。そのときは可能な限り応援してあげるから。」 僕は就職を決めた。はじめて接した社会人がこの人でよかったと思った。そりゃあ収入のことで不満はあったが、なんのことはない僕はこの小さな広告代理店が好きだったのだ。 なかなかそれを言葉にすることができなかった。まずい流れだった。このまま感傷モードが続けば僕は涙を流してしまうだろう。僕は『ウルティマオンライン』のキャラクターが自分の家を手に入れるところを想像した。無理やりだった。それくらい一刻を争う状況だった。 家にはお気に入りの木製の豪華な椅子とテーブルを置き、ワインとチーズも置こう。場所は海の見える静かなところがいい。夜の月明かりが窓から差す中で僕は海を眺めながらくつろぐのだ。 少し気持ちが紛れてきた。ゲームの力は偉大だ。 「もしレップが解散になったら僕は会社を辞めます」 上司はそうかと言って眼を瞑るとしばらく黙って考えていた。しばらく考えた後に彼は苦いものを絞り出すような口調で話を続けた。 「これは言うべきかどうか迷ったんだが、いちおう耳には入れておいたほうがいいと思うからここだけの話として聞いてくれ。出版社のほうからレップの営業マンを身請けしてもいいという話がきている。どうするかはいま決めなくてもいいからいちおう考えておいてくれ」 僕は反射的に眉間に皺を寄せた。 「なんですかそれは。僕はモノじゃないですから、くれって言われてじゃああげるとかそういうのは違うでしょう。僕はこの会社が好きだから入ったんです。それを直接会いにも来ないで使わないなら身請けしてもいいってどういう言い草だよ。」 上司はまあまあと言って激昂した僕をなだめる。 「君の性格から考えると決意は固いのかもしれないが、人生何が幸せで何が不幸せかは後になって気づくこともあるんだから、まだ少し時間もあることだしよく考えてみるといいよ。決して無駄なことではないから」 言葉の意味はわかる。何を言わんとしているのかも理解できる。それを言わせているのは上司のやさしさなんだろうとも思う。思考と感情がずれている感覚。しばらくの沈黙の後、いまこの瞬間に議論のうえで光明を得ることはないと僕は判断した。 「もちろん今後のことはよく考えてはみます。遅くとも2月中にはどうするか決めます」 そう言って僕は無理矢理相談を切り上げた。 席に戻ると僕は会談の踊り場の喫煙所に向った。そこには紫煙を燻らせているM子がいた。付き合うことになったとは言え昨日の今日である。お互い気恥ずかしさからかふだんのようなバカ話を口にすることもない。静かにふたすじの煙だけが時間が不可逆であることを主張していた。よそよそしい空気を嫌って僕のほうから小声で話しかけた。 「さっき部長と話して3月いっぱいで会社を辞めるって言ってきたよ」 「そっか」 「よく考えたほうがいいって言われたから2月中に結論出すって言っといた」 「がんばって」 その言葉がとても心に染みた。いますぐ抱きしめたい衝動を堪え、彼女にありがとうと礼を言った。 僕「今日は仕事忙しいの?」 M子「うん、いまやってる作業が来週前半までにあげなきゃいけないから」 僕「ふ〜ん、たいへんだね。そっちもがんばって。それ終わったらまた飲みにいこうよ」 M子「おっけー。じゃあがんばって早く終わらせちゃうよ」 と言ってM子は笑った。自然と僕の気持ちも軽くなる。今日は安心して家に帰れそうだった。
程なくしてべスパーの街に降り立つ。 不思議なものでゲームはメンタルの影響を大きく受ける。やってもやらなくてもいいことは気持ちがネガティブなときにはまったくやる気にならないものだ。そういう意味ではM子には感謝しなくてはならない。僕は心の中であらためてありがとうと呟いた。 魔法を唱えられない魔法使いの僕は、早急にある程度まとまったお金が必要だった。まずはお金を貯めて魔法を唱えるために必要な秘薬と身を守る防具を揃えなくては…… 僕は街の外に出てうろついている動物を物色し始めた。なにか適当な動物を狩って、肉を取って肉屋に売ったらお金になるような気がしたからだ。
豚だな。 牛はちょっとでかい。 僕は素手で豚に殴りかかった。 戦闘を開始すると同時にレスリングのスキルが上がり始めた。というかそもそも僕はいまは役に立たない魔法スキルと治療スキルしか身につけていない。治療も包帯を持っていなければ意味がないらしい。つまり、いまの僕は戦ってどうこうっていうレベルじゃないんじゃないかとは薄々気づいてはいたが、どの程度弱いのかすら何かと戦ってみないことにはわからない。 なんて考えている間にあっさり僕は死んだ。 豚の体力はほとんど減っていなかった。なるほど、僕は豚にも勝てないのか。そりゃあ裸で素手で戦闘スキルなしってこれより下はないよな。豚はもうちょっと先だな。僕は治療院で蘇生してもらいながら考えた。 めげずにまた動物を物色する。 鹿かな 死亡… 羊か? 死亡… 犬なら 死亡?! 兎… 勝利!!! はぁ、俺って兎と互角…… 落ち込む気持ちを振り払い兎の死体を漁る。なにもない。あ、そっか。ナイフがないと肉とか皮を取れないって説明書に書いてあったような気がするぞ。 開始早々にして根本的に計画の変更を余儀なくされた。 しかし彼女ができた僕はそう簡単には諦めない。うろついている間にあることに気が付いたからだ。森や林には秘薬と言われる魔法の材料が所々に落ちているのだ。人参、ニンニク、黒真珠、クモの巣、硫黄の灰、マンドレイクの根、血の苔、ナイトシェイドがそれだ。よしまずはこれだ。拾って拾って拾い捲るぞ! 僕は一心不乱に拾った。それこそ地形の影でもとから小さい秘薬のグラフィックの半分以上が隠れていても目ざとく見つけるプレイヤースキルが見に付くくらい拾い捲った。当然拾うとなくなる。街の外一帯の秘薬を拾い尽くしてしまった。しばらくするとまた現れるらしいのだけど、それが何時間後かはわからない。僕は少し足をのばすことにした。 森は木が邪魔で視界が悪い。少し街から離れた森で更に秘薬を拾い続ける僕の足下にsnakeが近づいていることに僕は気が付かなかった。突然、僕の体力が減り始めた。なにかから攻撃を受けているのか?
素手で小さな蛇と格闘する僕。 お互いの体力バーを表示させて冷静に戦いながら、当初の緊張はこれは勝てるという確信に変わった。順調に蛇の体力を減らす。あと一撃で勝利するであろう僕の予測を一変させる事態は突然訪れた。 僕の体力バーが緑色に変わる。 毒だ。 次の瞬間蛇は死んだ。蛇には勝ったが、僕の体力は徐々に減り始めた。戦闘で半分以下に減っていた体力がさらに減り始める。 ま、ま、まずい。 僕は街に向って猛然と走り始めた。走りながら不安が絶望に変わる。体力の減るスピードが予想以上に速く、街にたどり着くよりも死のほうが早いと悟ったからだ。ああ、せっかくいっぱい拾ったのに…… うわああぁぁあぁ…… 案の定、死亡。幽霊になった僕は猛ダッシュで治療院に行き、すぐに取って返した。死体が他人に漁られないように微妙に森に隠れるように死んだから、誰かに秘薬を奪われる確立は低いとは言え断末魔は近くに人がいれば聞こえてしまう。気づかれて探されてしまえば時間の問題だ。死んだ場所は街の門のすぐ外の森の中だ。体力回復もしないで急いで戻った僕は自分の死体を見つけ急いで荷物を開いた。よかった。拾った秘薬は全部そのままだった。こうしてる間にも襲われるかもしれないので急いで荷物をカバンに入れなおす。 すぐにダッシュして街に入る橋を渡った瞬間、僕は大きくはあ〜っと安堵のため息をついた。しかし安心するのはまだはやい。街中にも泥棒がいる。まだ気は抜けない。盗みはすぐ近くに立たないと実行できない。僕は近づいてくるプレイヤーが全員泥棒だと言わんばかりにあっちへうろうろこっちへうろうろと人を避けながら魔法屋へ向った。よくよく考えれば腕利きの泥棒は隠れ身のスキルも会得してるはずなので「見えている」他人を避けてもあまり意味はないわけだが、つねに動き回ることで盗まれにくくはなっている。 ようやく魔法屋で売り子を見つけ「I want to sell」と声をかける。 買い取りメニューが表示されそこに拾った秘薬がずらっと並ぶ。秘薬一つあたり2gp〜3gpで買い取ってくれる。そのまま持っていて魔法に使うことも考え一瞬躊躇したが、すぐに思い直し全部売り払った。まずは装備と戦えるスキルを身につけるのが先決だ。全部売却して400gpほどを手にした。 それから僕は街のあちこちを回り必要なものを購入した。 皮剥ぎナイフ 27gp とりあえずこれだけ揃えたところで所持金が底をついた。まだ全然足りない。でも裸で素手に比べたら雲泥の差だった。ちなみにハサミで布を切ると包帯が作れるのだ。50ヤードで50枚の包帯が出来る。これで戦闘で傷ついたとしても自分で治療できる。皮鎧と剣を装備して包帯も持って、グラフィックも裸に死人ローブから強そうな一端の戦士のそれに変わった。 戦士…… まあいい。魔法使いとしての道のりは長くて険しいのだ。
無理無理無理。 と思ったらガイーンと剣がヒットして、豚の体力がいきなりほぼ瀕死まで減った。僕はまじまじと手元の剣を見つめる。
おいおいおい、武器重要だよとRPGにおいて自然の摂理と同等くらいの常識を口走りながら、僕はナイフを豚の死体に突き立てる。すると死体の中に皮と生肉が出現した。ぼくはそれをカバンにしまうと街に向って戻り始めた。以前街を散策した時に見つけたある施設のことを思い出したからだ。 訓練所。 そこには白い人間の形をしたサンドバッグがいくつか置かれていた。驚いたことにスパーリングをするプレイヤーで結構賑わっている。僕はサンドバッグのひとつが空いていたので剣でそれを叩き始めた。すぐに剣術のスキルが上がり始める。スキルは0.1刻みで上昇するのだが、時たまスキルといっしょに筋力や敏捷力も上昇した。 あ〜、なるほどね。筋力、知力、敏捷力はそれぞれ関連したスキルが上昇した時に一緒に上昇する可能性があるということだ。 筋力=ヒットポイントなのでこれは重要だ。 僕はまたも一心不乱に白い人間形サンドバッグを叩き続けた。剣術スキルが30.0を越えるころになるとほとんど上昇しなくなってしまった。筋力も50を超えなんだか自分がすごく強くなった感覚を覚える。おそらく訓練所では30が限界だと判断し、僕は訓練所を後にした。そしてすぐさま街の外に走り出て豚を探す。
「こんにゃろ〜!」 ガイイン!ギイイン!
キタコレ! 一気に未来がぱあっと開けた。そうどこからどう見ても戦士としての未来が。 僕は片っ端から豚や羊を狩りまくった。 皮にハサミを使うことで持ち運びの楽なカットレザーになる。生肉は焚き火で焼くことでステーキになる。それぞれ肉屋や皮屋に売りに行くと一つ5gpくらいで買い取ってくれる。生の素材よりも一手間かけた方が少し高く買い取ってくれるのだ。狩って売って狩って売ってしてるうちに僕はあることに気が付いた。 たくさん売るとそのNPCの所持金が底をつき何も買ってくれなくなるのだ。しかも売ったり買ったりすることでモノの相場が変動するらしいのだ。すごい。なんかふつうにリアルだ。 NPCが買い取ってくれないあいだは銀行BOXに預けつつ狩りを続け、気が付いたら1000gp近く貯めることができた。僕はそのお金で足りない防具を飼い揃え、もはや戦士以外の何者でもない魔法使い(詐称)になっていた。 それから僕はもうひとつあることに気が付いた。 それはもう窓の外が明るいってことだ! 慌てて時計を見たら朝7時をまわっていた。 僕は急いでシャワーを浴びてスーツに着替え会社へと向いながら、まったく気づかずに完徹したのってすごい久しぶりだなあと嬉しさのあまりニヤニヤしていた。 投稿者 hero : 2007年02月21日 22:17 |


