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実録!オンラインゲーム人生記

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2007年02月21日

『心機一転:ULTIMA ONLINE』

衝撃の告白の翌日、結構お酒を飲んだ翌朝にしては意外なほど目覚めのよい朝。

理由や過程はどうあれ、好きなものは好き。そういう部分は僕はとてもシンプルに考えるタイプなのだ。そして感情に素直というかあまり自分を偽らないし気持ちも押さえ込んだりしない。善し悪しは別にして僕はそういう自分は気に入っていた。もちろんそれゆえ人を傷つけることもあるが、言葉にしなきゃ伝わらないこともある、というのが持論だった。結論から言えばこれは僕にとってとても必要な素養であったということになる。なぜならオンラインゲームでのコミュニケーションはそのほぼすべてを文字に頼らざるを得ないからだ。当然のことながら、言わなくてもわかってくれるはずとか雰囲気を読むという言外の意味を前提とするコミュニケーションの難易度は高く、言わなきゃ伝わらないというスタイルのほうがしっくりくるのである。

そうして僕は昨夜言葉を以て気持ちを伝えて、M子と付き合うことになった。

といってもすぐに何かが変わるわけではない。ただ、駅へと向う冬の朝の陽の光り、それに照らされる街の様子がいつもとは違ってとても輝いて見えたのも事実だった。


会社に着くと僕はお話があるのですがと言って上司を打ち合わせスペースに呼び出した。テーブルに着くなり僕は口を開いた。

「もう一度お聞きしたいのですが、メディアレップの解散は避けられないのですか?」

「そうだな、まあそういうことになるな。解散回避はおそらく無理だ」

「そうですか」

暫しの沈黙が少しだけ僕を感傷的にした。この会社に入るためにした就職活動を思い出す。そういえば社長(当時専務)と表参道でステーキを食べたっけ。社長はコピーライターで、広告におけるコピーライティングについての著書も出していた。そして広告業界で仕事をすることに誇りを持っている人なんだと思ったのをいまでも覚えている。そんなきっとほんの些細な感動が人の人生に影響を与えることはあるのだ。就職活動当時、D通やH報堂など所謂大手10社の就職試験を受け、すべて玉砕していた僕は就職浪人になって来年また挑戦するか内定の出ている中小の広告代理店に入るかで悩んでいた。その僕の背中を押したのがいまいる会社の社長だったのだ。

「広告業界は実力の世界だ。だから1年を無駄にするくらいなら小さい会社でもいいから業界に身を置いたほうが絶対にいい。もちろん君にうちに来てほしいから内定させてもらったんだけど、いつか大きな仕事をしたいならそれまでうちで力をつければいい。そのときは可能な限り応援してあげるから。」

僕は就職を決めた。はじめて接した社会人がこの人でよかったと思った。そりゃあ収入のことで不満はあったが、なんのことはない僕はこの小さな広告代理店が好きだったのだ。

なかなかそれを言葉にすることができなかった。まずい流れだった。このまま感傷モードが続けば僕は涙を流してしまうだろう。僕は『ウルティマオンライン』のキャラクターが自分の家を手に入れるところを想像した。無理やりだった。それくらい一刻を争う状況だった。

家にはお気に入りの木製の豪華な椅子とテーブルを置き、ワインとチーズも置こう。場所は海の見える静かなところがいい。夜の月明かりが窓から差す中で僕は海を眺めながらくつろぐのだ。

少し気持ちが紛れてきた。ゲームの力は偉大だ。

「もしレップが解散になったら僕は会社を辞めます」

上司はそうかと言って眼を瞑るとしばらく黙って考えていた。しばらく考えた後に彼は苦いものを絞り出すような口調で話を続けた。

「これは言うべきかどうか迷ったんだが、いちおう耳には入れておいたほうがいいと思うからここだけの話として聞いてくれ。出版社のほうからレップの営業マンを身請けしてもいいという話がきている。どうするかはいま決めなくてもいいからいちおう考えておいてくれ」

僕は反射的に眉間に皺を寄せた。

「なんですかそれは。僕はモノじゃないですから、くれって言われてじゃああげるとかそういうのは違うでしょう。僕はこの会社が好きだから入ったんです。それを直接会いにも来ないで使わないなら身請けしてもいいってどういう言い草だよ。」

上司はまあまあと言って激昂した僕をなだめる。

「君の性格から考えると決意は固いのかもしれないが、人生何が幸せで何が不幸せかは後になって気づくこともあるんだから、まだ少し時間もあることだしよく考えてみるといいよ。決して無駄なことではないから」

言葉の意味はわかる。何を言わんとしているのかも理解できる。それを言わせているのは上司のやさしさなんだろうとも思う。思考と感情がずれている感覚。しばらくの沈黙の後、いまこの瞬間に議論のうえで光明を得ることはないと僕は判断した。

「もちろん今後のことはよく考えてはみます。遅くとも2月中にはどうするか決めます」

そう言って僕は無理矢理相談を切り上げた。

席に戻ると僕は会談の踊り場の喫煙所に向った。そこには紫煙を燻らせているM子がいた。付き合うことになったとは言え昨日の今日である。お互い気恥ずかしさからかふだんのようなバカ話を口にすることもない。静かにふたすじの煙だけが時間が不可逆であることを主張していた。よそよそしい空気を嫌って僕のほうから小声で話しかけた。

「さっき部長と話して3月いっぱいで会社を辞めるって言ってきたよ」

「そっか」

「よく考えたほうがいいって言われたから2月中に結論出すって言っといた」

「がんばって」

その言葉がとても心に染みた。いますぐ抱きしめたい衝動を堪え、彼女にありがとうと礼を言った。

僕「今日は仕事忙しいの?」

M子「うん、いまやってる作業が来週前半までにあげなきゃいけないから」

僕「ふ〜ん、たいへんだね。そっちもがんばって。それ終わったらまた飲みにいこうよ」

M子「おっけー。じゃあがんばって早く終わらせちゃうよ」

と言ってM子は笑った。自然と僕の気持ちも軽くなる。今日は安心して家に帰れそうだった。


その夜、帰宅した僕は何の躊躇も無くPCの電源を入れた。

程なくしてべスパーの街に降り立つ。

不思議なものでゲームはメンタルの影響を大きく受ける。やってもやらなくてもいいことは気持ちがネガティブなときにはまったくやる気にならないものだ。そういう意味ではM子には感謝しなくてはならない。僕は心の中であらためてありがとうと呟いた。

魔法を唱えられない魔法使いの僕は、早急にある程度まとまったお金が必要だった。まずはお金を貯めて魔法を唱えるために必要な秘薬と身を守る防具を揃えなくては……

僕は街の外に出てうろついている動物を物色し始めた。なにか適当な動物を狩って、肉を取って肉屋に売ったらお金になるような気がしたからだ。


豚か。

豚だな。

牛はちょっとでかい。

僕は素手で豚に殴りかかった。

戦闘を開始すると同時にレスリングのスキルが上がり始めた。というかそもそも僕はいまは役に立たない魔法スキルと治療スキルしか身につけていない。治療も包帯を持っていなければ意味がないらしい。つまり、いまの僕は戦ってどうこうっていうレベルじゃないんじゃないかとは薄々気づいてはいたが、どの程度弱いのかすら何かと戦ってみないことにはわからない。

なんて考えている間にあっさり僕は死んだ。

豚の体力はほとんど減っていなかった。なるほど、僕は豚にも勝てないのか。そりゃあ裸で素手で戦闘スキルなしってこれより下はないよな。豚はもうちょっと先だな。僕は治療院で蘇生してもらいながら考えた。

めげずにまた動物を物色する。

鹿かな

死亡…

羊か?

死亡…

犬なら

死亡?!

兎…

勝利!!!

はぁ、俺って兎と互角……

落ち込む気持ちを振り払い兎の死体を漁る。なにもない。あ、そっか。ナイフがないと肉とか皮を取れないって説明書に書いてあったような気がするぞ。

開始早々にして根本的に計画の変更を余儀なくされた。

しかし彼女ができた僕はそう簡単には諦めない。うろついている間にあることに気が付いたからだ。森や林には秘薬と言われる魔法の材料が所々に落ちているのだ。人参、ニンニク、黒真珠、クモの巣、硫黄の灰、マンドレイクの根、血の苔、ナイトシェイドがそれだ。よしまずはこれだ。拾って拾って拾い捲るぞ!

僕は一心不乱に拾った。それこそ地形の影でもとから小さい秘薬のグラフィックの半分以上が隠れていても目ざとく見つけるプレイヤースキルが見に付くくらい拾い捲った。当然拾うとなくなる。街の外一帯の秘薬を拾い尽くしてしまった。しばらくするとまた現れるらしいのだけど、それが何時間後かはわからない。僕は少し足をのばすことにした。

森は木が邪魔で視界が悪い。少し街から離れた森で更に秘薬を拾い続ける僕の足下にsnakeが近づいていることに僕は気が付かなかった。突然、僕の体力が減り始めた。なにかから攻撃を受けているのか?


え? え?


あまりに突然でどうしてダメージを受けているのか最初わからなかった。慌てて街の方向へ走ると小さい何かが僕を追っかけてきた。蛇だった。どうやら蛇は攻撃的な性格のようだ。なんだ蛇かという安堵とそれほど体力が減らされたわけではない状況が僕の判断を曇らせた。なんだ蛇かが、なんだ弱いじゃんに頭の中で変換される。

素手で小さな蛇と格闘する僕。

お互いの体力バーを表示させて冷静に戦いながら、当初の緊張はこれは勝てるという確信に変わった。順調に蛇の体力を減らす。あと一撃で勝利するであろう僕の予測を一変させる事態は突然訪れた。

僕の体力バーが緑色に変わる。

毒だ。

次の瞬間蛇は死んだ。蛇には勝ったが、僕の体力は徐々に減り始めた。戦闘で半分以下に減っていた体力がさらに減り始める。

ま、ま、まずい。

僕は街に向って猛然と走り始めた。走りながら不安が絶望に変わる。体力の減るスピードが予想以上に速く、街にたどり着くよりも死のほうが早いと悟ったからだ。ああ、せっかくいっぱい拾ったのに……

うわああぁぁあぁ……

案の定、死亡。幽霊になった僕は猛ダッシュで治療院に行き、すぐに取って返した。死体が他人に漁られないように微妙に森に隠れるように死んだから、誰かに秘薬を奪われる確立は低いとは言え断末魔は近くに人がいれば聞こえてしまう。気づかれて探されてしまえば時間の問題だ。死んだ場所は街の門のすぐ外の森の中だ。体力回復もしないで急いで戻った僕は自分の死体を見つけ急いで荷物を開いた。よかった。拾った秘薬は全部そのままだった。こうしてる間にも襲われるかもしれないので急いで荷物をカバンに入れなおす。

すぐにダッシュして街に入る橋を渡った瞬間、僕は大きくはあ〜っと安堵のため息をついた。しかし安心するのはまだはやい。街中にも泥棒がいる。まだ気は抜けない。盗みはすぐ近くに立たないと実行できない。僕は近づいてくるプレイヤーが全員泥棒だと言わんばかりにあっちへうろうろこっちへうろうろと人を避けながら魔法屋へ向った。よくよく考えれば腕利きの泥棒は隠れ身のスキルも会得してるはずなので「見えている」他人を避けてもあまり意味はないわけだが、つねに動き回ることで盗まれにくくはなっている。

ようやく魔法屋で売り子を見つけ「I want to sell」と声をかける。

買い取りメニューが表示されそこに拾った秘薬がずらっと並ぶ。秘薬一つあたり2gp〜3gpで買い取ってくれる。そのまま持っていて魔法に使うことも考え一瞬躊躇したが、すぐに思い直し全部売り払った。まずは装備と戦えるスキルを身につけるのが先決だ。全部売却して400gpほどを手にした。

それから僕は街のあちこちを回り必要なものを購入した。

皮剥ぎナイフ 27gp
Long sword 90gp
Lether tunic 100gp
Lether leggings 80gp
ハサミ 14gp
Bolt of cloth 90gp ←布の一巻き(50ヤード)

とりあえずこれだけ揃えたところで所持金が底をついた。まだ全然足りない。でも裸で素手に比べたら雲泥の差だった。ちなみにハサミで布を切ると包帯が作れるのだ。50ヤードで50枚の包帯が出来る。これで戦闘で傷ついたとしても自分で治療できる。皮鎧と剣を装備して包帯も持って、グラフィックも裸に死人ローブから強そうな一端の戦士のそれに変わった。

戦士……

まあいい。魔法使いとしての道のりは長くて険しいのだ。


(豚め、いま行くから首を洗って待ってやがれ!)


意気揚々と僕は街の外に飛び出した。早速豚を見つけ斬りかかる。しかし全然攻撃が当たらない。すぐに僕は思い出した。剣で攻撃するには剣術(Swordsmanship)のスキルが必要なのだ。さっきまで素手で戦って上がっていたのはレスリングのスキルなので今は剣術スキル0.00である。

無理無理無理。

と思ったらガイーンと剣がヒットして、豚の体力がいきなりほぼ瀕死まで減った。僕はまじまじと手元の剣を見つめる。


(な、なんだ、これは?! つ、強いじゃないか!)


僕の体力も豚にぶーぶー突っつかれ半減していたが、瀕死になって豚が逃げ始めたので当たらない剣を振り回し豚を追っかける。しばらくおっかけっこの末またギイイインと剣が豚を捕らえ豚は絶命した。

おいおいおい、武器重要だよとRPGにおいて自然の摂理と同等くらいの常識を口走りながら、僕はナイフを豚の死体に突き立てる。すると死体の中に皮と生肉が出現した。ぼくはそれをカバンにしまうと街に向って戻り始めた。以前街を散策した時に見つけたある施設のことを思い出したからだ。

訓練所。

そこには白い人間の形をしたサンドバッグがいくつか置かれていた。驚いたことにスパーリングをするプレイヤーで結構賑わっている。僕はサンドバッグのひとつが空いていたので剣でそれを叩き始めた。すぐに剣術のスキルが上がり始める。スキルは0.1刻みで上昇するのだが、時たまスキルといっしょに筋力や敏捷力も上昇した。

あ〜、なるほどね。筋力、知力、敏捷力はそれぞれ関連したスキルが上昇した時に一緒に上昇する可能性があるということだ。

筋力=ヒットポイントなのでこれは重要だ。

僕はまたも一心不乱に白い人間形サンドバッグを叩き続けた。剣術スキルが30.0を越えるころになるとほとんど上昇しなくなってしまった。筋力も50を超えなんだか自分がすごく強くなった感覚を覚える。おそらく訓練所では30が限界だと判断し、僕は訓練所を後にした。そしてすぐさま街の外に走り出て豚を探す。


いた!


見つけるのが早いか自慢のロングソードを抜き払い、僕は豚に躍り掛る。

「こんにゃろ〜!」

ガイイン!ギイイン!


豚瞬殺。2撃で沈んだ豚から再び肉と皮を剥ぎ取る。

キタコレ!

一気に未来がぱあっと開けた。そうどこからどう見ても戦士としての未来が。

僕は片っ端から豚や羊を狩りまくった。

皮にハサミを使うことで持ち運びの楽なカットレザーになる。生肉は焚き火で焼くことでステーキになる。それぞれ肉屋や皮屋に売りに行くと一つ5gpくらいで買い取ってくれる。生の素材よりも一手間かけた方が少し高く買い取ってくれるのだ。狩って売って狩って売ってしてるうちに僕はあることに気が付いた。

たくさん売るとそのNPCの所持金が底をつき何も買ってくれなくなるのだ。しかも売ったり買ったりすることでモノの相場が変動するらしいのだ。すごい。なんかふつうにリアルだ。

NPCが買い取ってくれないあいだは銀行BOXに預けつつ狩りを続け、気が付いたら1000gp近く貯めることができた。僕はそのお金で足りない防具を飼い揃え、もはや戦士以外の何者でもない魔法使い(詐称)になっていた。

それから僕はもうひとつあることに気が付いた。

それはもう窓の外が明るいってことだ!

慌てて時計を見たら朝7時をまわっていた。

僕は急いでシャワーを浴びてスーツに着替え会社へと向いながら、まったく気づかずに完徹したのってすごい久しぶりだなあと嬉しさのあまりニヤニヤしていた。

2007年02月02日

『魔力:ULTIMA ONLINE』

翌日、失うものが何もなくなった僕は再びべスパー目指して出発した。とは言え、死ぬのも気持ちのいいものではないので海岸線はあきらめ街道を行くことにした。動物たちが冷ややかに僕を無視してくれる。新米冒険者にはありがたいことだ。意外にも旅は順調で、襲われそうなモンスターはまったく視界に入ることなく快適であった。

昨日よりも更に街道を進む。ところどころ廃墟みたいな砦があったり、おそらくは他のプレイヤーの所有物である家が立ち並んでいたりと歩いているだけで刺激的だった。地域で生えている草木も違っていたりする。これが階層とかエリアで箱庭が区切られずに、世界はずーっと繋がっている。この海の向こうあの山の彼方を想像して、さらに旅が旅らしいものに感じられる。だんだん楽しくなってきた。道すがら現れる家々にもいろいろな形があるんだなあとぼんやり眺める。いつか僕も自分の家を持てるかな。そんなことを考えてしまうほど長閑な一人旅。


程無くして街道が二股に分かれている森の切れ目に出た。そこに立て看板があったのでクリックすると、

ブリテン、べスパー、ミノック

と表示された。

よしよし。道は合ってる。おそらくこの三叉路から東へ延びる道がべスパーだな。

僕が東へ歩き出そうとしたそのとき、唐突に僕の後ろに他のキャラクターが現れた。僕がおや?っと思う間もなく突然剣で斬りつけられた!

げげっ

見るからにモンスターではなくほかのプレイヤーのキャラクターである。しかも『hehe』とか言ってるし!

PKされるのは『UO』がはじめてではないわけだが、やっぱり恐いものは恐い。初期キャラなんだからまあ死ぬなと判ってはいるけど、やはり逃げようと必死になる。HPは最初の一撃で半分くらいに減っている。

とりあえず僕は逃げようと走った。

が、おそらく回線速度の違いだろう、相手のほうが足が速い。すぐに回り込まれて進行方向正面に立たれる。『UO』はスタミナが減っていると他人やモンスターを乗り越えて移動できずにぶつかって立ち止まってしまう。そのあいだも相手はオートアタックの攻撃を繰り返してくる。さらに二発斬りつけられて僕は死んだ。「Time 2 die ;-)」というメッセージを目にした直後、僕はまた灰色の世界に佇んでいた。

画面の真ん中に、このプレイヤーを殺人者として報告しますか? というウィンドウが現れた。当然YESだw
そして更に、この殺人者に懸賞金をいくらかけるかとウィンドウは続ける。でも文無しの僕は0ゴールドでOKするしかない。

なるほど、街の掲示板に載っているウォンテッドリストにはこういう仕組みで懸賞金が積まれていくわけか。幽霊になってべスパーに行けばいいやという算段もあり、僕は意外と冷静だった。殺人者は僕の死体を漁って何もなかったからか「damn no money, HEY POOR NEWBIE, bring ur all belongs here! HAHA」とか喚いている。

うへえ、マジ恐いわ。

そういうロールプレイなのかもしれないが、かなり追い剥ぎっぽい。その人をクリックすると名前が赤く表示された。既に何人も殺しているということか。僕は姿を見せることなく幽霊のままその場を立ち去った。幽霊になってその場にいるであろう僕に向ってそいつは罵
詈雑言を吐きながら画面の端に消えた。そしてべスパーへと向う灰色の街道沿いに佇む他の幽霊を何人か見かけた。しきりに「sh○t!」や「F○ck!」を幽霊語でくり返し叫んでいるw

やつがnewbie killerなんだとしたら、単なる弱いものいじめじゃないか。なんかちょっと腹が立ってきた。名前は覚えておくことにしよう。

無事(?)べスパーに到着した僕は、とりあえず蘇生してくれるヒーラーを探した。べスパーは大小の浮島を桟橋で複雑に繋いだ構造の街になっていた。街の端でヒーラーを見つけたので、僕は医者らしきNPCに体当たりする。

蘇生の魔法が掛けられ僕は生身を取り戻した。とりあえず当分はここを拠点にするつもりなので街の施設を廻って場所を把握することにした。

武器屋、食材屋、秘薬屋、銀行、鍛冶屋、弓矢屋、肉屋、治療院、宿屋、宝石屋、魔法屋、雑貨屋、造船所!、裁縫屋、酒場、大工道具屋、皮屋、道具屋、戦士訓練所などをみつけた。なんだかわからない建物もいくつかあったりしたが重要そうな施設は概ね記憶した。

店々を廻りながら売り物を物色する。なるほど、造船所で船が買えるのね。値段をみたら10000ゴールドちょっとだった。意外に安いのかな。とりあえずいまは無理だけど、またそのうち見に来ることにしよう。それから、大工屋だったか道具屋だったかで建築家(architect)というNPCがいた。お!っと思って売り物をチェックしてみる。

やはり!

家の権利書なるものが売られていた!ここもチェックチェックということで早速値段を見てみると、一番安い家で40000ちょっと、一番高いのは100万ゴールド(!)以上した。しかもcastleとか書いてあるから城が建てられるのか?

まじですか!?
城のバルコニーに立つ自分のキャラを想像して僕はわくわくし過ぎて身震いしてしまった。そして、明日からは本格的にUOライフ始めるぞと心に決め僕はベッドに潜り込んだ。


次の日朝起きて会社に向う。僕の仕事場は東京のお世辞にも大きいとは言えない広告代理店だというのは以前お話したとおりである。僕はその広告代理店の営業マンをしていた。

世の中にはいろんなメディア(媒体)が存在し、商業メディアにはほぼ必ずと言っていいほど広告が存在する。そのメディアが到達できる消費者の数が多くなればなるほどその傾向は強くなる。TV、ラジオ、雑誌、インターネットなどもそういったメディアのひとつだ。

メディアは広告メッセージをメディアに載せ消費者に届ける代わりに依頼主からその代価を得る。そう考えれば案外シンプルなビジネスだ。メディアが成長するにつれクライアント(広告主)の数も増えていく。そうなったときメディア側の負担も大きくなってくる。営業にかかるコスト、クライアントを管理するコスト、広告を載せる作業にかかるコスト、不払いに対するリスクなどである。

広告代理店という機能をメディアが欲したのは自然な流れであったのだろう。広告代理店をあいだに挟むことによって、複数のコストをアウトソーシングしつつリスクヘッジも可能にしたのだから。現在、ほとんどのメディアは広告代理店以外からの直接の広告掲載依頼を(特別な場合を除き)受けていない。

つまりそこは"広告"というジャンルに特化したスペシャリストの集団なのである。

僕が勤めていたのは雑誌広告をおもに扱う広告代理店。前にも述べたとおり、コンピューター関連企業を多く扱う広告代理店である。一般商材を扱う広告代理店では1代理店1ジャンル1社という暗黙(?)のルールが存在し、ライバル会社どうしの両方を同じ広告代理店が扱うということは基本的にはないわけだが、専門分野に特化したジャンルでは逆にひとつの広告代理店に競合会社も含め同じジャンルの企業が集中することも多い。なぜなら効果的な広告表現はその分野に精通していないとなかなか作れないという意識がクライアントには存在し、専門的な分野ほどそれをうまく表現できるスペシャリストを必要とするからだ。

そういったメディアと広告代理店との関係において、ひとつの協業形態が生まれたのも自然な流れだった。それがメディアレップ(media representative)だ。最近インターネット広告の分野で目にする機会も多いので、IT用語として認識している読者も少なからずいるかもしれないが、メディアレップというものはインターネット広告が世の中になかった時代からすでに存在していた。簡単に言えば、仲介企業が広告集稿を一手に引き受けるシステムのことだ。メディアが広告部門を企業(主に広告代理店)にまるまるすべて任せる形である。この場合、広告のやり取りはメディア−メディアレップ−広告代理店−クライアント、という流れになり仲介業者がひとつ増えることになる。雑誌社のレップの場合で言えば、メディアレップは営業、一部の広告企画、進行、売り上げ管理、代金回収、印刷所への入稿、校正のやりとりなど基本的なことは全て行うことになる。そして、メディア側のメリットとして、営業、進行管理コストの大幅削減、ノウハウが無くても広告集稿が可能、専門分野でも強い営業戦力の確保などいい面も多くあるが、反面クライアントとの距離感やレップ手数料が新たに発生するなどマイナス面も当然ある。

そして、僕が勤めている広告代理店はまさにそのメディアレップってやつでした。コンピュータ関連の某出版社が営業ノウハウの拙い時代にある広告代理店とレップ契約を結んだ。その広告代理店のレップ部門の営業マンが僕の仕事だった。収入には不満がありましたが、仕事には誇りを持っていた。本社(出版社)の営業マンを差し置いて企画を立案し、自らクライアントを選び出し足を運び、広告の発注をもらってくる。そして企画を成立させる。本社営業マンよりも売り上げで上回ることも度々あったことは仕事へのモチベーションの大きな要因のひとつだった。だって、痛快である。

しかし、またしてもその日、僕は運命の神様に弄ばれることになる。

1月下旬の薄ら寒い曇り空のその日、毎夜、凍える夜中でも世界中の人たちと遊べるぜ!とおおはしゃぎで『ULTIMA ONLINE』にどっぷりはまっているお気楽サラリーマンの僕は、上司から大事な話があると言って会議室に呼ばれた。

そして、レップ契約をしている某出版社が営業ノウハウの蓄積と広告営業部門の充実を背景に今期限りでレップ契約を破棄すると言ってきており、これは決定事項だと伝えられたのだ。それがどういうことを引き起こすのかすぐにはわからなかった。そして上司がさらに言葉を続けるに連れ、僕は血の気が引いていくのを感じた。

「レップ部門は3月いっぱいで消滅になるので、広告代理店としての営業部に異動するかどうか考えておいてほしい」

…………
……

デスクに戻った僕はショックを隠せなかった。仕事が手につかない。僕は、その日の午後のアポイントをすべてキャンセルした。

近くの喫茶店に入り、ホットコーヒーを頼んでぼーっと考える。

上司の異動するかどうかっていう言葉が頭にこびりついて離れない。その「どうか」の部分は何を指してるんだよ。でも本当は深く考えずともわかっていた。広告代理店営業とはクライアントがあってなんぼのものである。担当クライアントが一切ない状態で営業部に異動するということは、新規開拓で一線の営業マンと同じレベルに並べということだ。それを踏まえて、異動するか「辞めるか」考えてほしいと上司は言っているのだ。

辞める?

僕が?

仕事がなくなる?

もはや、べスパーの街に肉屋があるから近場にうろついている牛や鹿を狩ろうなんていうお気楽なことなんてこれっぽっちも頭に浮ばなくなっていた。オンラインゲームができるかどうかの前に生活ができるかどうかという話になってしまったのだ。しばらく考えているうちにまたしてもだんだん腹が立ってきた。そもそもレップ営業利益はうちの会社の利益全体の中で大きな割合を占めると聞いている。それを円満な合意のもとに契約解消にいたったとは俄かには信じがたい。一方的破棄なのかもしれない。いやそうに違いない!
そう考えるに至ると余計に今日は仕事をする気がなくなってしまった。

ほとんど吸わずに灰になってしまったタバコの火を消し、僕は会社に戻ると上司に今日は早退しますといって再び会社を出た。上司もああ、と言ったきりなにも聞いてこない。その無言に対して、そういうことなんだなと僕は心の中で呟いた。会社の自動ドアを抜け外に出る。どこに行こうかなと考えるが、なにもする気が起きない。家に帰るか……と考えて、その自宅に帰る自分を想像し、恐くなった。入ったら二度と出られない迷宮かブラックホールのように思えたのだ。だめだ、今日は帰れない。帰りたくない。

会社のあるこのビルは全フロア禁煙の為喫煙所は非常階段の踊り場にある。その、僕のいるレップ営業部のフロアである5階とその上の6階のあいだの踊り場が背伸びをした僕の目に入る。そこはいつもタバコを吸っている踊り場なのだが、6階にいるデザイナーの女性がタバコを吸いに出てきていた。ふたつ年下のその女性とは、年が近いこともありよくその喫煙所でタバコを吸いながら無駄話をする仲である。

彼女もこちらに気付いた様子で、僕に向って手を振っている。飛んで火にいる夏の蟲である。僕はジョッキを飲み干すジェスチャーをした。僕の意図に気付いた彼女は右手でOKサインを掲げて、腕時計を指差すジェスチャーをした。よく考えたらまだ昼メシ時だ。この時間から飲めるところはない。僕は両手を使って指を6本立ててみる。彼女は一瞬首を傾げて中空を見上げた後、OKのサインを再び掲げて社内に消えた。

忘れ物をしたふりをして一度デスクに戻り、さっきの彼女にメールを書く。とりあえず駅のほうにある小奇麗な居酒屋で待ち合わせましょうと送っておく。

とりあえず夕方までどこかで時間をつぶすか……

再び会社を出た僕は、近所のゲームセンターへ向った。その日の精神状態でバーチャやレースゲーがいつも以上にうまくいく筈がない。僕は時間とお金を垂れ流した。でもゲームをすることで余計な不安を頭から追い出すことはできる。僕は一心不乱にコインを垂れ流し続けた。

約束の時間に居酒屋に入ると彼女は既に店のテーブルに着いていた。僕に気付くと大きくこっちこっちと手を振る。すこしぽっちゃりしたその彼女はM子さんと言い、どちらかと言えば可愛いタイプの女性。とは言え下心で誘ったわけではなく、今のこの憤りを聞いてもらう生け贄でしかないのだが。

とりあえず生ビールを2つ頼みながら席に着く。
そして開口一番、僕はまくし立てた。

僕「もうさ、ありえないんだけどさあ、聞いてくれる?」

M子「何?どうしたの?」

僕「僕のいる営業部3月一杯でなくなるって今日言われてさあ、なにそれって感じで」

M子「なにそれ?ほんとに?……で辞めるの?」

僕「いきなり核心かよ。ん〜……まだ今日の今日だからなんとも言えないけど、営業部でやってくのはちょっと無理な気がするんだよな」

M子「ふーん」

そこへ生ビールのジョッキが運ばれてきた。大きさを頼んだかどうかはうろ覚えだったが、ちゃんと大ジョッキだ。まあよく来る居酒屋だからなと安心する。

僕「だってバブルの時期ならまだしも、新規開拓とかぜったいきついと思うよ。営業まわっててもどこもかしこも広告費削減とか言ってるわけだし」

M子「まあそうかもねー、制作でも仕事全体的に減ってる感じはするもんねー。そっかそっか。ヘロさんも大変だな。まあ今日は飲もうよ。慰めてやるよ、元気出しなって、あはは」

M子「じゃ、ま、とりあえず乾杯ということで」

と言って、悪戯っぽく笑いながらM子はジョッキを目の前に掲げた。

僕「いや、ぜんぜんおめでたくないし」

と言って僕も笑い、乾杯をした。M子も僕もお酒は強いほうなので酒が進む。何度か一緒に飲んだことはあるがふたりで飲むのは初めてだった。ふたりの会話は酒が進むにつれだんだん大愚痴大会の様相を呈してきた。

M子「あーあ、私もこの会社でずっとってのもどうなんだろうなあ。生活も変わり映えしないし、かと言って実家に帰る気もないんだけどさあ・・・」

僕「なにそれ?で、会社辞めるの?」

M子「はは、まあ冗談だけどね、そんな度胸ないって」

僕「でもまあ確かにうち給料よくないからなぁ」

M子「そう、ヘロさん会社辞めたらどうすんの? ひとり暮らしだよね? 貯金は?」

僕「貯金?……まあ、ないかな……」

M子「一円も?」

僕「う、うん」

M子「はあー」

と言ってM子はうなだれると本気のため息をついた。確かに冷静に考えたら仕事を辞めたら僕は生活できない。しかも貯金0って普通に誰でもびっくりするよな。あんまりリアルに考えたくないから考えからシャットアウトしていたけど、それが事実なのだ。

僕「とりあえずはまあ2ヵ月以上あるわけだから仕事は探すつもりなんだけどね。退職金も出ると思うし……」

M子「………………」

僕「最悪の場合は実家に帰るって手もあ」

酔っ払ったM子が僕の言葉をさえぎって前に乗り出してきた。なんだか目が据わってるように見えるし、顔も真っ赤だ。

M子「私さあ、3月で契約更新だからいまのアパート引っ越すつもりなんだけどさあ、もしよかったらいっしょに住まない?」

僕「ひっこ?!……えええ!?」

M子「その代わり引越しは手伝って欲しいんだけど」

僕「……は、はあ……っていうか……」

M子「駅はどこがいいかなぁ〜」

と言ってM子は勝手にどの沿線が便利で相場が安いのかという話をし始めた。

僕「あ、あの、M子さん? 酔っ払ってるでしょ?」

既に都営線は却下されている。千代田線か東横線か新玉川線かというあたりで僕は口を挟んだ。

M子「そりゃお酒飲んでるんだから酔うに決まってるでしょ」

僕「いや、そういうことじゃなくて・・・」

M子「じゃあなによ」

予想外の展開にむしろ僕のほうが置いてけぼりにされてるような感覚に襲われる。ただ、よくよく考えてみればルームシェアできるならありがたいのは確かだ。しかし彼女は本気なんだろうか。もし本気だとしたら嫌いな異性にそんなことはたとえ酔っ払っていたとしても提案するとは考えられない。それ以前にふたりで飲みに来ている時点でお互い好意は抱いていると考えるのがふつうか。

まてまて、僕は彼女に対して好意を抱いているのか?そりゃ嫌いな女性とふたりで飲もうとは思わないわけだから当然好きか嫌いかと聞かれれば好きなんだけど。ならばそれを理解したうえで同居するというのは単なるルームシェアで済むだろうか……

僕の思考回路は猛烈に回転を始める。彼女は勝手に東横線は高いだの急行だったらどの駅に止まるだのさらに加速している。M子は持っていた路線図をテーブルに広げて話し続けている。僕は深く考え込んだときの癖でうんうんと頷きながら右手の人差し指でテーブルをコツコツとつつく。

その提案が悪い話ではないことははっきりしてるのだが、それが実現可能なことなのか……
すごい勢いで頭の中でシミュレートし始めた。

そもそも重要なことに、僕も彼女と同じ量の生ビールを飲み干している。そして、酔っても冷静な判断を下していると考えるのが酔っ払いの常である。

チーン

僕は結論に至った。

僕「M子さん」

M子「やっぱり千代田せ、、え、なに?」


僕「僕と付き合ってくれませんか」

お互いの会話が止まる。

ええと、はしょりすぎ?

それとももしかして早まったか、俺?

M子さんは純粋にルームシェアを提案していただけなのか?

それは置いておいたとしてももっと気の聞いた台詞はなかったのか。突拍子もないことを突然口走って何言ってんだこいつとか思われてたら明日どんな顔して会社に行けばいいんだろう。僕は不安で真顔になったまま彼女の顔を見つめた。彼女は最初こそ僕の顔をまじまじと見つめたものの、すでにすこしうつむき加減で黙っている。アルコールがM子の顔を赤く染めていると判りつつも、その恥ずかしそうにしている仕草にも見えるM子の様子が余計にいじらしさを強調していた。僕の耳が赤くなっているのもアルコールのせいだと彼女は思うだろうか。


「……うん……」

居酒屋の喧騒のなか、その消え入りそうなM子の声だけは僕の耳にはっきりと聞こえた。