LAZとサキュバスを殺し一旦村でアイテム分配会議となった。
とりあえずAANが欲しいと僕は言う。ソーサラーは僕だけだったので他の誰も欲しがらない。礼を言って僕は杖を取った。
さすがにORZは出てなかったが、よさげなRingもゲットして他の3人もそれぞれ欲しいアイテムを受け取った。残りはみんなで売り払いお金にして分配した。
メアクリアーがまだなのでとりあえずDIABLOを倒して終わりたいと僕が言うとみんな付き合ってくれるとのこと。
僕が礼を言うと、他の3人は15階LAZ部屋から開いたタウンポータルの魔法へ再び入っていく。
僕もそれに入る。
LOADINGがやけに長い。
…………………………
なんかおかしい。もう数分はLOADING画面で固まってる。
冷や汗が噴出す。これは完璧に回線落ちだ。
AANもRINGもその他の予備装備も全部村に置きっぱなしだ。
(やばいなこれは……)
彼らはいつまで待ってくれるだろう。
というかもし誰もいなくなったらゲームが消滅してしまう。
というかパブリックゲームだからもし泥棒が入ったら……。
嫌な汗が首筋を流れ背筋を伝う。
やばいやばいやばい
PCの状態回復を待たずに強制的に電源を落とす。
即、再起動。
電子音とともにファンが回り始める。
はやくはやくはやく
モデム接続のアイコンをクリックしようとしたまさにそのとき、
家の電話が鳴り響いた。
なんという絶妙のタイミングなのか。
当然、電話中はネットに繋ぐことができない。
僕はフリッカージャブを繰り出し乱暴に受話器を掴み取る。
電話は遠距離恋愛中の彼女からだった。付き合ってまだ半年も経っていない。彼女はまだ学生ということもあり会うこともなかなかできない。
彼女「ねぇ、ぜんぜん電話つながらないんだけど」
僕「いま無理」
光の速さで電話を切った。
そして即モデム接続クリック。
ピーガー言い始めたからもう安心(謎)だ。
『DIABLO』起動。
Battle.Net接続。
しかし重い。
夜中はプレイヤーが増えるから当然混雑するわけだが、そもそも288のモデムが貧弱なのだ。
やっと繋がった。
気が動転していてはっきりしないが、落ちてから既に10分以上経っている。通常ゲームから誰もいなくなると5分ほどでゲーム部屋は消滅する。
キータイプももどかしくJoin gameを選び、Game名を入力すると、
the game does not exist.
そんなゲームは存在しませんよと。
あははは。
涙が出てきた。
なんだろう、この遣る瀬無さは。
あまりに脱力してまたもや呆然となる。
落ち着け。
とりあえず風呂に入ろう。
ユニットバスにお湯を溜めながら一服する。
まあ、アイテムはまた集めりゃいいのさと自分に言い聞かせる。
なぜかトルネコの大冒険の日々が脳裏に浮かぶ。
世の中、何かハメに近い要素や理不尽に不利を強いられる要素に
触れるとすぐにゲームをクソゲーだと断じる人もいるわけだが、
そういう意味で言えば回線落ちやサーバー落ちなんて究極だ。
そういう人はオフサイドが気に入らないからサッカーは
クソスポーツだと言うのだろうか。
春に雪が溶け始めると滑ることのできるスキー場が減ってしまうことに
マジギレするのだろうか。
ばかばかしい。
楽しむか楽しめないのかは自分しだいなのに。
その上でクソゲーだと思うのならやらなきゃいい。
風呂に浸かりながら漠然とそんなことを考えて
徐々に平常心を取り戻す。
気分もさっぱりしたところでプレイ再開。
とりあえず3度ナイトメアクリアーを目指す。
パブゲームを作るのはちょっと不安がよぎったので
適当そうなパブリックゲームを探す。
MARE/HELLゲームはけっこう多いな。
う〜ん、どれがいいかな。
と、突然玄関のベルが鳴った。
もう12時を回っている。こんな夜中に?。
一抹の不安を抱きつつ玄関を開ける。
そこには彼女が立っていた。
えーと、
君のうちは、ここから
100キロメートルくらい
離れてませんでしたっけ?
もちろんそんなことは口にしないが、
僕の顔が一瞬曇る。
彼女はほんの数ミリ眉間を険しくしながら、
誰かいるの?と聞いてきた。
僕「誰もいるわけないじゃん」
僕の声がかすれて震える。
考えてみればこの土日で口にだした言葉は「い・ま・む・り」の
4文字だけだ。
彼女「ふ〜〜ん、、、おなかすいちゃった。いっしょに食べない?」
と言って手に持ったコンビニの袋を僕に見せびらかした。
おでんのいいにおいが漂う。
部屋に上がりながら彼女はコートを脱いだ。
「なにしてたの?」
「ゲームだけど……」
彼女が僕の顔をじっと見つめる。
確かにさっきの態度は冷たかった。それは認める。
申し訳ないと思ってる。でも、しかたがない状況だったんだ。
上手く説明するのはとても難しいのだけど・・・
とか言うまえに、
「まいっか。すごい心配したんだからね。
今日友達の家に泊まるって言って来たから」
と言って彼女は無邪気に微笑んだ。
僕の完敗だった。
僕はPCの電源を落とし、コーヒーを2杯淹れた。
とりあえず誤解があっては困るので『DIABLO』というゲームを説明する。電話を通じていろんな人といっしょに遊べるゲームだということがいまひとつ理解できていないような、興味がないような反応。
ただ彼女の不安要素はひとまず消えたようであった。
そしてシングルベッドにふたりで腰掛けながら電気を消した。
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・
明け方、すぐ目の前で寝息を立てる彼女の横顔を見つめながら
僕は今日あったことを思い出していた。
オンラインゲームはやばいかもしれない。
彼女に対して間違いなく「うざい」と思った瞬間があった。
それにプレイ中は電話がまったく繋がらない。
善し悪しはともかく、ヴァーチャルもリアルの上に成り立っているのだ。
そうなると同棲したほうがいいのかな?
それで電話を2本引くとか・・・
そうなると引っ越さないと無理か。
というかそんなお金ないって。
けっきょく、いくら考えてもなにも結論は出なかった。
疲れは心地よく、白み始めた空にタバコの煙がまっすぐ昇っていく。
今日はもうこのまま寝ずに仕事に行くつもりだった。
翌朝、駅で今度の週末はどこか遊びに行くという約束を交わし彼女と別れた。
そして僕はそのままNTTに行き、その場でISDNを申し込んだ。