John Baez
ジョン・バエズ
ザ・ベヒーモスの共同創立者およびプロデューサー。日本語の名刺では“社長”になっているが、社内ではこの肩書きはほとんど使わない。ザ・ベヒーモスは2003年創立、マルチプラットフォーム向けのふたつのタイトルを出している。最新作は『キャッスルクラッシャーズ』(Xbox LIVE アーケードのゲーム・オブ・ザ・イヤーを獲得)、『エイリアン ホミニッド HD』、(同上)。

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2009/11/25
第1通:べヒーモス・ブースの芝生はいつも青い

 

Xbox 360のXbox LIVE アーケードタイトル『キャッスルクラッシャーズ』などの開発元としておなじみのザ・ベヒーモスのジョン・パエズ社長によるコラム。ファミ通Xbox 360で連載中の同名コラムを再録。誌面の都合でカットせざるを得なかった部分も網羅した完全版でお届けします(毎月25日更新予定)。


 今年の東京ゲームショウ(TGS)は、ベヒーモスにとって2回目の出展になりました。昨年のTGSでもそうでしたが、私たちは数少ない欧米のビデオゲーム開発会社のひとつとして出展しました。昨年から海外のゲームショウに出るようになったのですが、アメリカ、ヨーロッパの開発会社があまりTGSに出展していないことにびっくりしました。TGSは、クリスマスまえ最後の大きなゲームショウであり、また一般公開日もあって、これからリリースする作品を見せるにはベストな場所だと思います。当然のごとく海外からもっとたくさんの会社が出展していると思っていましたが、私たちベヒーモスの小さなブースが再びパイオニアという結果になりました。

 TGSは、ベヒーモスのゲームをプレイしてくれているゲーマーと直接交流できるすばらしい機会を与えてくれます。インターネットがもたらした大きな変化の波により、ゲーマーにゲームを直に宣伝し販売できるようになったいま、E3(エレクトロニック・エンターテインメント・エキスポ)のようなプレスと流通のみを対象としたショウに行く意味が失われてしまいました。また、私たちのような小さな会社では、同時に見せられるタイトルは1本か2本に限られる上、プレスはすでにその内容を知っているため、E3などのショウに出展するのは時間とお金の無駄になってしまうのです。

 ベヒーモスでは、2003年に会社を創立してから数ヵ月後に“ツアー”を始めました。会社はサンディエゴにありますが、ここでは毎年夏に40年以上もまえから世界最大の一般ファン向けのイベント、コミコン(Comic‐con International)が開催されています。最初はたった3メートルx3メートルの小さなブースを出しても無駄かなと思いました。その上、最初のゲーム、『エイリアン ホミニッド』はPCで動かしていたのですが、これをプレイステーション2(このプラットフォームでの販売を予定していたので)で動いているように見せていました。私たち以外に展示しているゲーム会社は、アクティビジョン、バンダイ(当時)そして任天堂だけでしたが、バンダイと任天堂はとくにビデオゲームに重点を置くわけではなく、おもちゃやカードゲームを宣伝していました。限られた開発費をひとつのトレードショウに注ぎ込むのもどうかと思っていましたが、その考えはブース設営のために会場に一歩足を踏み入れた瞬間に変わりました。

 トレードショウのブース設営は、言ってみればゲーム開発を数時間に縮めたようなものです。30万平方メートルほどの巨大なガランとした会場で、何千人という人たちがそれぞれのブースで自分のパーツを黙々と組み立てているのです。彼らはランダムに動いているマシンのように見えるのですが、数時間のうちに道路や建物や人間で構成された精密で機能的な町を作り出します。また、この町が現存するのは数日間ですが、すぐれたビデオゲームと同じようにその後何年もビジターの記憶に残るのです。

 私たちがこうしたトレードショウ、とくにTGSに出展するおもな目的は、ゲームを見せることではありません。最初のコミコンでは、大勢の人たちに私たちのような独立開発会社のゲームをプレイ(そしてテストも!)してもらう機会はほかにないことを知りました。こちらではよく「失敗の可能性のあるものは失敗する」という言いかたをしますが、ゲームに何かの問題(失敗の可能性)があればトレードショウの期間中に必ず表面化(失敗する)ので、すぐにミスやバグを見つけることができるのです。このため、どんなトレードショウでもベヒーモスのブースでは、その場だけに借り出されたマーケティングの人たちではなく、プログラマーやアーティスト、プロデューサーが対応していることにお気づきいただけると思います。ほとんどの大きなゲームパブリッシャーやデベロッパーのトレードショウ・ブースでは、専門スタッフが対応するので、実際にゲームを開発した人たちに直接会うことはまず不可能です。これでは一般向けのトレードショウに出展する本来の目的にそぐわないように思います。私たちは、よりよいゲームを作るため、自分たちが作っているゲームをプレイしてくれる人たちと直接交流したいのです。

 ベヒーモスにとっては、毎年3月の東京国際アニメフェアを皮切りにトレードショウのシーズンが始まるのですが、本格的なスタートはその数ヵ月後です。7月末のコミコン、ペニー・アーケード・エキスポ(PAX)から9月中旬のTGSまできっちり2ヵ月間はトレードショウ耐久プログラムのようなものです。トレードショウでは、できるだけ早くファンにゲームを見てもらい、触ってもらうことはもちろんですが、彼らがゲーム・プレイとグラフィックスにどんな反応を示すかを観察する機会でもあります。7年まえに会社を創立して以来、私たちはゲームそのものだけでなく、そのゲームのクリエーターの宣伝にも努めてきました。『キャッスルクラッシャーズ』も『エイリアン ホミニッド HD』も完全に手描きの作品です。そのため外観がとてもユニークなものになっています。それでもトレードショウでのファンの反応を観察した結果、ビジュアルに多くのデザイン変更を加えてきました。これは決して痛みを伴わない作業というわけではありません。2008年にリリースした『キャッスルクラッシャーズ』のグラフィックスは、2005年に初めて出展したときのものから一変しています。基本的な部分を大きく変更することになったため、最初半年間の開発努力はすべて水の泡になり、開発の仕切り直しを迫られたのでした。

TGS2009SetUP
RoccoGrass


※バエズ社長によると、副題にはふたつの意味があるとのこと。
1.「カリフォルニアから日本のゲーム業界を見ているととてもクールでカッコいい。つねにベストなアイディアを出してきて、自分たちもそうなりたいと思う。日本はクールでとっても遠いので素晴らしいに違いない」という隣の芝生的な見かた。
2.今年のTGSでベヒーモスブースに人口芝を使ったところ、皆が「とてもいい」、「ブースがカラフルになった」と言ってくれた。それで「TGSでどこにいても僕たちのブースはいつもきれいです」、「ほかのブースを出てこっちにいらっしゃい!」というメッセージ。

(翻訳:みちよパティロ)


※ザ・ベヒーモスの公式サイトはこちら(英文)